この記事は2024年11月29日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「定着までには一歩及ばない需給ギャップの改善傾向」を一部編集し、転載したものです。


定着までには一歩及ばない需給ギャップの改善傾向
(画像=Pcess609/stock.adobe.com)

(日本銀行「需給ギャップと潜在成長率」ほか)

物価の趨勢を把握するためには、需給ギャップの動向を確認することが必要だ。需給ギャップとは国全体の供給力と総需要との差であり、ギャップ動向と物価圧力は関連性がある。わが国の需給ギャップは、日本銀行のほかに内閣府など複数の公的機関が公表しているが、本欄では、金融政策を決定する上で参考になる日本銀行の需給ギャップを中心に分析する。

ちなみに、日銀の需給ギャップとは、実際のGDP(国内総生産)と潜在GDPとの乖離率のこと。これを、労働投入ギャップおよび資本投入ギャップで説明するモデルで推計する。ここでいう労働投入ギャップとは生産要素である実際の労働投入量と潜在労働投入量との乖離率、資本投入ギャップとは同じく実際の資本投入量と潜在資本投入量との乖離率を指す。このモデルは、常に改定される実際のGDPの数値を用いないため、安定的に需給ギャップを推計できる利点がある。

実際に需給ギャップの推移を確かめてみると、2000年のIT景気をきっかけにプラス圏に浮上するが、IT景気の終焉と1990年代のバブル崩壊以降続く過剰債務圧縮の動きなどから、2002年にかけてマイナス圏で推移した。その後は改善傾向が続くが、08年のリーマンショックによる需要急減で09年にかけて再びマイナス圏へと大きく落ち込んだ。

それ以降はマイナス幅が徐々に縮小し、20年にかけて労働市場改善が続くなか、労働投入ギャップを主因としてプラス圏に転じた。しかし、近年は新型コロナウィルスの感染拡大で再びマイナス圏に踏み入れ、コロナ禍が過ぎて徐々に回復傾向にあるが、自動車業界の品質不正の影響などで現在も弱含んだままプラス圏には到達していない。

需給ギャップと消費者物価指数(CPI)の動きを見ると、総じて需給ギャップにCPIがラグを伴いながら連動して推移していることが分かる。ただし、需給ギャップが20年にかけて改善した局面では、CPIが反応せず、デフレマインドの継続が示唆される。足元では、需給ギャップの動きよりもCPIが大きく上昇しており、外部要因による物価上昇であることがうかがえる。

需給ギャップの推移は、物価の趨勢だけでなく、金融政策の動向とも関連付けて説明できる。例えば、00年と06~07年の日銀の政策金利引上げは、その推移から需給ギャップとも関連性が高いといえる。一方で、24年の日銀の利上げは、需給ギャップとは別の理由があることを暗示している。このように需給ギャップの推移を注意深く観察することは、さまざまな示唆を与えてくれる。

定着までには一歩及ばない需給ギャップの改善傾向
(画像=きんざいOnline)

東京国際大学 データサイエンス教育研究所 教授/山口 智弘
週刊金融財政事情 2024年12月3日号