現代のビジネス環境は急速に変化するため、短期間で新たな課題が発生することもあります。このような課題を解決する手法として「システム思考」が注目されています。
従来のアプローチと比べて、システム思考にはどのような特徴があるのでしょうか。
本記事ではシステム思考の仕組みやプロセスに加えて、ChatGPTなどの生成AIを活用したアプローチについて紹介します。
システム思考は見える化で課題解決を目指すアプローチ
システム思考は、課題を引き起こしているシステム全体(仕組み)を見える化して、有効な対策であるレバレッジポイントを探すための思考法です。
課題の根本を特定しつつ、解決につながる対策を打ち出すことができます。変化が激しい現代ビジネスに適したアプローチとして注目されています。
<システム思考の主な効果>
・複雑な課題であっても、根本の原因を特定しやすくなる
・課題を引き起こしている変動要因のつながりを可視化できる
・チームでの共有によって共通認識を持ちやすくなる
基本的には課題解決に用いられるアプローチですが、市場の変動要因や入り組んだ人間関係を整理することもでき、新たなプロダクトの開発にも応用できます。
システム思考(システムシンキング)とは
システム思考(システムシンキング)とは、課題が発生した事象を1つのシステムとして捉えるアプローチです。システムの全体像や、システムの構成要素間のつながりを俯瞰して分析し、課題が生じた背景や原因を探っていきます。
現代のビジネス環境は急速に変化するため、目の前の表面的な課題を解決するアプローチだけでは対処しきれない場合があります。
特にさまざまな要素が絡み合った課題を解決するには、大局の流れを俯瞰的に見定めて、根本の原因を取り払うことが必要になります。システム思考は、まさにこのような場面で効果を発揮するアプローチです。
デザイン思考やロジカルシンキングとの違い
ビジネスにおける課題解決の手法には、「デザイン思考」や「ロジカルシンキング」と呼ばれるアプローチもあります。
デザイン思考とは、ユーザーのニーズを起点に物事を捉えて、客観的な視点から課題解決を目指すアプローチです。ユーザーの抱える本質的な課題を特定しやすく、プロダクトの開発にも活用できます。
また、「論理的思考」と訳されるロジカルシンキングは、得られた情報や事実を論理的に分析する手法です。矛盾のない筋道を立てながら、「その事実がなぜ起きているのか」や「根本的な問題がどこにあるのか」を特定していきます。
解決したい課題や場面によって適したアプローチは異なるため、各手法の特性を正しく理解して活用しましょう。
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デザイン思考とは? プロダクト開発や課題解決につなげる5つのプロセスと注意点
システム思考の基本ツール
実際にシステム思考で課題を解決するには、どのようにアプローチすればよいのでしょうか。ここからはシステム思考の基本ツールである「氷山モデル」と「因果ループ図」の概要や使い方を紹介します。
氷山モデル
氷山モデルとは、解決したい課題(出来事)を「パターン」「構造」「メンタルモデル」の要素まで深堀りするフレームワークです。
システム思考では課題を俯瞰的に判断する必要があるため、表面的な出来事を以下の観点から分解する必要があります。
出来事:起きている課題や事象
パターン:問題を引き起こしているパターン
構造:パターンを生み出しているビジネスや組織の構造
メンタルモデル:関わっている人物や、一人ひとりの行動特性または思考特性
一般的にはメンタルモデルが最下層となり、課題を深く掘り下げるほど有効な解決策を発見しやすくなります。
因果ループ図
因果ループ図は、課題を引き起こしている要素(変数)を書き出し、各要素の因果関係を矢印で表した図です。
矢印には、同じ方向で増減する正の相関を表す「同の矢印」と、その逆となる負の相関を表す「逆の矢印」の2種類があり、中心部分には根本的な課題(※なにもしなかった場合にループする事象)や最も重要な変動要因を書き込みます。
以下では、競争が激しいビジネスで「顧客満足度の低下」が課題になっているケースを例に、簡易的な因果ループ図を作成してみました。
同の矢印のみを使いましたが、例えば「差別化の困難」を「差別化の度合い」と記載した場合は、「技術開発の遅れ」や「顧客満足度低下」とは逆相関になるため逆の矢印を使用します。
2種類の矢印を書き込む際には、それぞれ別の色を使うことでわかりやすい因果ループ図になります。一般的には同の矢印を青色、逆の矢印を赤色で書くことが多い傾向があります。
システム思考の6つのプロセス
因果ループ図を使用する場合、システム思考の手順は以下の6つに分けられます。
1.課題や問題を言語化する
2.関係者を整理する
3.変動要因を特定する
4.因果関係を矢印で結ぶ
5.ループ自体に名前をつける
6.レバレッジポイントを分析する
ここからは各プロセスに分けて、システム思考で課題解決をする流れやポイント、注意点を紹介します。
1.課題や問題を言語化する
まずは、システム思考を使う目的を明確にするために、解決したい課題や問題を以下のような形で言語化します。
・自社の〇〇はなぜ△△なのか?(例:自社の顧客満足度はなぜ低下しているのか?)
・どうすれば〇〇が△△になるか?(例:どうすれば顧客満足度が高くなるか?)
上記のように言語化できたら、次はその課題が生じた経緯や時系列を整理しましょう。どういった要因がどの時点で絡み合い、最終的に課題を引き起こしているのかを掘り下げていきます。
また、この段階では「時系列変化パターングラフ」と呼ばれるツールを用いて、課題をそのまま放置した場合の影響や、理想のパターン(目標)を整理しておくことも重要です。
<時系列変化パターングラフの作成手順>
1.縦軸に解決したい課題の変数を取る(顧客満足度など)
2.横軸に時間を取る(週や月、年など)
3.「過去」「現状の延長」「理想」の3パターンに分けて、グラフを書き込む
「過去」「現状の延長」と「理想」のグラフがかけ離れ、その結果としてビジネスに大きな悪影響が生じる場合は、早急に課題を解決する必要があるでしょう。
2.関係者を整理する
次に、課題に関わる人物や組織などを整理していきます。仮に「顧客満足度の低下」を課題にする場合は、ユーザーのほかにも競合他社や新規参入者、自社のスタッフなどが関係者になります。
関係者を整理する目的は、後述の「変動要因」を洗い出すためです。それぞれの関係者が「どのような立場からなにを重視しているのか」を掘り下げると、因果ループ図の構成要素(課題の変動要因)を特定しやすくなります。
3.変動要因を特定する
次は、各関係者が重視している事柄や行動をイメージしながら、課題の変動要因を1つずつ特定していきます。
例えば、顧客満足度の低下に自社のスタッフが関わっている、開発部門で新しい技術開発がどれだけ進んでいるか、企画部門でどれくらい差別化を図る施策が行われているかなどが主な変動要因になります。
ただし、変動要因が膨大な数になると、因果ループ図の作成が難しくなってしまいます。主な変動要因をひと通り列挙したら、重要度や優先度を判断しながら10個程度に絞りましょう。
4.因果関係を矢印で結ぶ
次の工程では、最も重要な変動要因を中心に書き、その周りにほかの変動要因も記載します。変動要因の記載が終わったら、それぞれの相関関係を意識しながら「同の矢印」と「逆の矢印」で結んでください。
各要因を結ぶことが難しい場合は、変動要因が不足していたり、結ぶ順番が間違っていたりする可能性があります。必要に応じて前のステップに戻りながら、すべての変動要因を矢印で結ぶことを目指しましょう。
5.ループ自体に名前をつける
すべての変動要因を結ぶと、円形のループが完成します。前述の例でいうと、「顧客満足度低下→収益の圧迫→技術開発の遅れ→差別化の困難」がひとつのループを形成しています。
変動要因の数によっては複数のループができあがるので、区別をするために各ループに名前をつけましょう。「競争力を失うループ」や「赤字経営が続くループ」など、自身にとってわかりやすい名称をつければ問題ありません。
6.レバレッジポイントを分析する
因果ループ図が完成したら、課題を引き起こしている根本の原因を特定しつつ、少ない労力で大きな成果につながる「レバレッジポイント」を分析します。
1つの変動要因に目を向けるのではなく、システム全体を俯瞰して以下の観点から対策を考えましょう。
<レバレッジポイントを分析する視点>
・変動要因を結んだり切り離したりして、ループの構造を変えられないか
・ループを早く回す、または遅く回せないか
・情報の流れを変えて、関係者の動きを誘導できないか
・関係者の立場や組織を変えて、動きを誘導できないか
・システムの前提となる心構えや固定観念を変えられないか
上記のように多角的な視点で分析すると、1つの課題に対して複数の対策を打ち出せます。思い浮かんだものを列挙したら、最も成果が大きいレバレッジポイントを見つけましょう。
システム思考にChatGPT(生成AI)を活用する方法
ChatGPTなどの生成AIを活用することで、システム思考の精度やスピードを高められる可能性があります。
例えば、以下のようなプロンプト(指示文)を入力すると、主な変動要因やそれぞれの優先度、矢印の結び方などの提案を出力してもらえます。
<プロンプトの例>
あなたは〇〇株式会社の社員であり、システム思考の専門家です。
自社が抱えている課題を解決するために、因果ループ図の作成を通してレバレッジポイント(特に効果が大きい対策)を見つけようとしています。
以下の指示書に従って、システム思考に必要な情報をまとめてください。
#事業や課題の内容
・〇〇に関連する事業を行っており、製品として〇〇を取り扱っています
・主なターゲットの属性は〇〇です
・〇〇が〇〇という課題を解決するために、システム思考を行おうとしています
#命令
以下の手順で分析を行ってください。
手順1.関係者を整理する
課題の関係者(自社の部門や専門人材、顧客など)を洗い出し、可能であれば各関係者の立場も明確にしてください。
手順2.変動要因を特定する
関係者が重視している事柄や行動を予測して、課題の変動要因を特定してください(最大で10個)。
手順3.因果関係を整理する
各変動要因の因果関係を、正の相関と負の相関で整理してください。
#出力時のルール
以下のサンプルに倣って、表形式で分析結果を出力してください。
正の相関は「→」、負の相関は「⇒」で表してください。
|変動要因|ループ|
例:|最も大きな変動要因|顧客満足度の低下⇒収益性⇒技術開発の遅れ→差別化の困難|
また、ループ全体を俯瞰して分析し、最も効果のあるレバレッジポイントを1つだけ記載してください(理由も含める)。
上記はあくまで一例であり、工夫次第ではプロダクトの開発に関わる課題を特定したり、氷山モデルとして出力させたりすることも可能です。
ただし、生成AIが常に正しいとは限らないため、出力結果はあくまで参考程度に留めてください。
システム思考で課題を根本から解決しよう
次々と新しい課題が生じる場面において、システム思考は有効なアプローチの1つです。課題を引き起こしている根本の原因を特定できるため、長期間にわたって同じ課題に悩まされているような企業でも大いに役立つでしょう。
また、システム思考は、現代社会の複雑な問題に対処するために不可欠な考え方です。物事を全体として捉え、要素間の関係性を分析することで、より深い洞察を得ることができます。
システム思考を理解し、正しく活用することで、ビジネスおけるさまざま場面での課題を解決することが可能になるでしょう。
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