ITプロ人材シェアリングサービス『WithGrow』
Photo by 新井 賢一

株式会社シーエーシー(以下、CAC)が運営する『WithGrow(ウィズグロウ)』は、プロフェッショナルIT人材による伴走支援で、企業のIT・デジタルに関する課題を解決するサービスだ。

『WithGrow』の事業責任者を務める定清奨は、ITの力を多くの企業に広げることで「日本経済全体の底上げにつなげていきたい」と意気込む。

困難な状況に直面しても、強い意思や仲間への思いを胸に立ち止まることはない。愚直に試行錯誤をし続ける、定清の新規事業に懸ける思いに迫った。

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定清 奨(さだきよ・しょう )
新規事業開発本部 サービスプロデューサー
1984年広島県生まれ。博士(理学)。2012年に株式会社シーエーシーに入社。大手製薬企業向けのインフラ構築・運用プロジェクトを経て、海外ビジネス・技術トレンド調査プロジェクトに参画。その後、R&Dセンター(現R&D本部)にて、AIやIoTなどを活用した新ソリューションの企画を推進。2022年より新規事業開発本部に所属。WithGrow事業責任者として企画・推進を担当。

——これまでの経歴を教えてください。

定清 学生時代は生物の研究をしてました。島根大学を卒業後、大阪府立大学で修士号、博士号を取得しました。

その後は研究職に進むか、就職をするかの2択だったのですが、就職活動の中でCACに出会い、27歳で新卒入社しました。

CACではインフラ系のプロジェクト、技術的な調査やビジネストレンドの調査、R&Dセンター(現R&D本部)を経て新規事業開発本部に所属しています。

——生物の研究からIT企業へ、一見すると全く異なる領域を歩まれています。CACへの入社の決め手はなんだったのでしょうか?

定清 学生時代は生き物の行動や進化に関する研究をしていたのですが、専門性を生かせる職が少なく、専門性を生かせてもそれが中途半端になってしまう企業にも就職したくなかったんですよね。

人生をガラッと変えたかったこと、博士課程時代に統計解析などでプログラミングに触れていたこともあり、IT企業がいいなと。CACに決めたのは、たまたまだったというか(笑)。

CACの採用プロセスがポンポン進み、一方、東日本大震災の時期と重なりそのほかの企業への就活がしづらくなったこともあり、これもご縁かな、と思って決めました。

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——どのような経緯で新規事業開発本部に配属されたのでしょうか?

定清 R&Dセンターで主に企画を担当して、IoTの新しいソリューションを考えたり、AIを使った新しいプロダクトを考えたり、といった業務を担当していました。

新規事業とまではいかないですが、新規サービスに関する取り組みだったと言えると思います。それを本部長の中西(英介)さんが見ていて、部署立ち上げにあたって声をかけてもらいました。

>>中西英介インタビュー「独立系SIerの新たな挑戦 新規事業を生み出す創造的な組織マネジメントとは」

——そのときは、どういった心境でしたか?

定清 まずは新規事業開発本部が立ち上がると聞いて「この会社が変わっていくんだ」という驚きがありました。異動への驚きは小さかったですが、呼んでもらえてうれしかったです。

ただ、新規事業開発本部は実績を持っている方々がそろっている部署なので、その中で、それほど実績もない私がどれだけできるか、という不安はありました。

——不安の一方で自信はありましたか?

定清 自信はなかったです。今もあまりないかな。でも、来たからには一つ爪痕を残してやろうという思いは持っていました。今は一つの事業をいかに成功させるかというモチベーションに変わりましたが。

それに加えて、新規事業開発本部全体をもっといい方向に持っていけたらなとふんわり思っていたりします。

——実績がある方々に囲まれて、周りから刺激を受けているのでは?

定清 そうですね。ただ、常にあるかと言われるとそういうことはなく、各事業が独立してやっていることが多いので、横のつながりを積極的に作っていく必要はあります。

私は若手のメンバーを集めて勉強会を開催しています。勉強会といっても、本を読んでワイワイするような感じで、実質的には会話の場を作っているという感覚です。若手の今の状況や、ほかの事業の状況が聞くことができるのはすごくいいなと思っています。

——どういった思いで勉強会を始めたのですか?

定清 この部署は自由があるのですが、ある意味自由過ぎて若手の人たちが困っているところがあると感じていました。

例えば今後のキャリアに向けてどういう学習をしていけばいいのか、どのようにコミュニケーションを取ればいいのかといったところですね。その課題を解消するための一つのきっかけになればいいかなと。

私自身は読書が好きで、若い人にも本を読んでほしいという思いもありました。なので勉強会という形で本の紹介をして、読んでくれたらいいなという軽い気持ちで始めました。

——『WithGrow』について教えてください。

定清 フリーランスや副業として活動されている方の力を最大限に借りて、中小企業、中堅企業のITやDXにおける課題を解決していくサービスです。

一見するとフリーランスエージェント、副業エージェントという立ち位置にはなりますが、ターゲットを中小企業としていたり、SIerとしてシステム開発に携わってきた我々が間に入ることで、確度の高いコーディネートやマッチングができたりすることが特徴です。

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WithGrowの特徴
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——『WithGrow』はどのような経緯でスタートしたのでしょうか?

定清 もともとは私が考えたアイデアではなくて、本部長の中西さんが中小企業と副業人材やフリーランスをマッチングして、課題解決につなげるようなサービスの素案を考えていました。

そこに「私も検討に入りたいです」と手を挙げ、事業計画を作るタイミングで私が引き継ぎました。

私も大企業だけでなく、中小企業の支援をしたいという思いを抱えていたので、その思いにつながるサービスだったことも手を挙げた理由としてありました。

——中小企業の支援をしたいという思いを持つようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

定清 CACのメインのクライアントは大企業が多く、もちろんそういった企業を支援することにやりがいはあります。ただ、日本全体を見たときには当然ながら中小企業の支援も必要だと思うんです。

日本の企業の大半は中小企業です。上位数パーセントの大企業だけDXに成功しても ―それはもちろん大事だという認識のうえで敢えて言いますが、日本経済のベースアップにはつながらないのではないか、という課題感があったんです。

中小企業の生産性を上げて、日本全体の底上げにつなげていきたいというふうに考えていました。

——組織の一員として働きながら、日本全体を考える視座の高さに驚きました。

定清 いつもこういったことばかり考えているわけじゃないですよ(笑)。後付けというか、いつから『WithGrow』に興味があったかなと振り返ったときがあったんです。そこで思い当たったのが、上を大きくするよりも下を大きくしたいという信念だったなと。

学生時代の研究もそういう方向性でした。最先端の研究よりも基礎研究、国の基礎を上げるような作業をしていたので、そういうことが好きなんだろうなと思います。

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——『WithGrow』を中西さんから引き継いだタイミングで、プロジェクトはどういった状況だったのですか?

定清 2022年の後半だったのですが、まだ事業化からは遠かったですね。事業計画を作り、承認を得て、来年から何かしらやっていこうというステータスでした。事業開始のちょっと前という状況です。

——そこからどのように進めていったのでしょうか?

定清 2023年1月からすぐに動けるようにしたかったので、12月にITプロ人材獲得のためのWebサイトを突貫で作りました。

ただ、当時は副業やフリーランスの人材を集めて、登録してもらうなんてできるんだっけ? というような感覚でしたね。2023年は人を集めることをテーマにスタートしました。

——順調なスタートを切れたのでしょうか?

定清 1、2、3月と登録数が思ったほど伸びなくて、これはまずいぞとなりました(苦笑)。突貫で作ったWebサイトが原因だと思い、シンプルに『WithGrow』の説明と登録ボタンだけを配置したものに修正しました。

すると徐々に登録者が増えてきて、軌道に乗せることができました。そこからもターゲットを意識して微修正を加えていったのですが、微修正でも登録数に差が如実に出るんだなと実感しました。

——2024年はどういったテーマだったのでしょうか?

定清 2023年にある程度、ITプロ人材を集めることができたので、次はこの人たちをどう売り込むか。2024年に入ってから企業に対して本格的に営業をしていきました。どうアプローチして、どう受注するかということに注力した1年でしたね。

アポを取って、商談をして、ITプロ人材と企業を引き合わせてディスカッションをして、と一通りの経験ができました。

——困難に直面したことはありましたか?

定清 まずは受注が取れなかったことですね。下期に入って取れ始めたのですが、1月から3月はアポもなかなか取れず、そこからは商談までいっても受注が遠かったんです。そこは改善が必要なポイントでした。

また中小企業はどうしても決裁のプロセスが長くなったり、決裁者の社長までなかなかたどり着けなかったりすることが多くて。いかにして社長にたどり着くか、という知見が貯められたことは良かったですね。

——商談を増やすためにどのようなアプローチを取ったのでしょうか?

定清 テレアポの架電するリストの改善に取り組みました。最初は「中小企業」という括りでざっくり作っていましたが全然だめで。「DX認定を取っている中小企業」に絞ると商談までいくことが増えました。

そこから、「健康経営優良法人はどうだろう」「地域未来牽引企業ってなんだ」といったふうに切り口を変えてみたり、業界をフィルタリングしていったり、今も現在進行系で改善に取り組んでいます。

——困難に直面しても楽しんで挑戦を続けている印象を持ちました。

定清 楽しんではいないし、できればすんなりいってほしいです(笑)。でも新規事業ってそんなものだと思っています。でもその分、うまくいったときは満足感があります。

先ほど言ったようにWebサイトを変えたり、リストを変えたりすると、はっきり数字に表れるので。そういった打ち手を自分で判断し、自分で決断を下せるのは新規事業のおもしろさだと思います。

——壁にぶつかったときに必要なマインドセットは?

定清 余計なことを考えずに、必要なことを愚直にやることが大事だと思います。できなかったことに落ち込んでも先に進まないので、「とりあえず試してみようか。試してだめだったらまた次へ」という気持ちでやるしかないのかなと。

私自身もメンタルは強くなくて、考え始めるとグルグルと堂々巡りになってしまうタイプなんです。なので、突き詰めて考えるべきときは考えて、あとはやる。それがいいかなと思います。

——愚直に取り組める原動力はどこにあるのでしょうか?

定清 せっかく新規事業開発本部が立ち上がったので、そこで1件でも2件でも稼げる事業を作らないといけないという使命感があるんじゃないかと思います。中西さんが立ち上げた部なので、中西さんがしっかり評価されてほしいなと思っています。

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——引き上げてもらった人として、中西さんへの恩義があると。

定清 そうですね。以前から目をかけてもらっていましたから。せっかく新規事業開発本部がCACの中に生まれたのに、尻すぼみになってなくなってしまうのは悲しいじゃないですか。

ずっと続くような組織であるためには、事業として成り立つものが複数必要だと思います。それはなんとか達成したい、その中の一つが『WithGrow』であれば尚良しだと思っています。

——新規事業開発で最も重要なものはなんだと思いますか?

定清 なんでしょう、元気かな(笑)。元気がないとできないですよ、やっぱり。何度だって壁にぶつかるし、その度に疲れるんです。なのでそれなりの元気や体力は必要なのかなと。

あとは試行錯誤しながらできるかどうか。仮説検証というと言葉が大きいかもしれないですが、なんとなく仮説を立てて、当ててみる。違ったらまた別の仮説を当ててみる。それをいかに繰り返せるかだと思うので、そういった思考や行動が染み付いている方はやりやすいのかなと思います。

——ここまでで最も達成感を感じた瞬間は?

定清 まだないですね。まだまだです。感じるときが来るのかな。ずっと挑戦が続くのかなとも思うので。事業を成り立たせたら、今度はもっと大きくしないといけないし、その次は一つの事業部として成り立つくらいの規模を目指さなきゃいけないですし。

考えれば考えるほどゴールがないなって思います。達成感と言えるかはわかりませんが、道中に小さいゴールを設定して、満足感みたいなものを得ながらずっと続けていくんだろうなって気がしています。

——定清さんにとって新規事業開発とは?

定清 チャレンジ、ですかね。常にずっとチャレンジし続けています。疲れますけどね(笑)。

——最後に『WithGrow』を通して実現したいことをフリップボードに書いていただけますか。

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定清 『WithGrow』という名前のとおり、企業も登録してもらっているITプロ人材も成長する。そういう社会を作れたらいいなと思っています。

中小企業の方と接していると、「DXをやろうと思っているんだけどね……」という話を毎日のように聞きます。止まってしまっている課題解決の取り組みを、『WithGrow』が入ることで推し進めて、IT化やDXが常態化する環境を作りたいです。

ITプロ人材もずっと伴走するわけではないので、ある程度までサポートしてその後は企業が自走できる形が理想です。

自走できる企業が増えれば、日本社会全体の生産性も上がってくると思うので、その一助になれればと思います。

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(提供:CAC Innovation Hub