これまでの事業変遷について
—— 創業から現在に至るまでの経緯と、事業内容について教えてください。
株式会社ウェザーニューズ 代表取締役社長・石橋 知博氏(以下、社名・氏名略) 当社は1986年に創業し、気象情報を取り扱う会社です。創業者は1970年に福島県で起こった海難事故をきっかけに気象の世界に進み、創業当初は船舶向けのルーティングサービスを提供していました。船長に対して安全で効率的な航路を提案するBtoBサービスで、国内外約1万隻の大型船舶をサポートしています。最近では環境配慮の観点も重視されており、当社のサービスもこの指標をカバーしています。
現在、海上だけでなく飛行機や陸上にも事業を展開し、物流や電力など幅広い分野で気象情報を活用したサービスを提供しています。BtoCでは、オーシャンルーツを買収後、NTT DoCoMoのiモード時代に個人向け気象サービスを開始し、陸海空に加えてインターネットを通じた多様なサービスを展開しています。
—— 気象庁との関係についてはどうお考えですか。
石橋 海上気象は気象庁の管轄外であり、気象業務法の規制が及びません。そのため、当社はグローバル展開を前提に事業を進め、現在21カ国に拠点を持っています。一方で陸や空の市場では、各国の規制に対応しながら気象庁とも協力して業務を行っています。
気象庁は観測や情報提供を主な役割としていますが、市場に向けた新しいビジネスの創出は私たちの役割です。気象庁のデータだけでなく、独自データも活用し、企業や個人向けに適したサービスを提供しています。
—— 物流業界における気象情報の重要性について教えてください。
石橋 気象情報は物流業界で特に重要です。天候の変化は道路の封鎖や船舶、航空便の運行に直接影響します。当社のサービスでは、ドライバーや物流企業に通行可能なルートや通行止めのリスクを提供し、企業のオペレーション最適化を支援しています。これにより、コスト削減や人手不足の課題にも対応しています。
自社事業の強みについて
—— 御社の強みを教えていただけますか?
石橋 民間の気象会社自体が世界的に少なく、特に我々のようなフルサービスを提供する企業はさらに珍しいです。農業、電力、流通、コンビニ、飛行機、道路、鉄道、防災、自治体、工場、スポーツといった多岐にわたる分野でソリューションを展開しており、気象に関する課題で対応できないものはほとんどありません。これがBtoBにおけるスケールメリットであり、我々の大きな強みです。
さらに、当社はメディアとしての顔も持っています。アプリのダウンロード数は4500万を超え、YouTubeの登録者も134万人以上。これにより、個人向けサービスでも大きな影響力を発揮しています。40年にわたるデータの蓄積とノウハウを活かし、個人と法人の両方に新たな価値を提供している点が、他社にはない独自性です。
—— 先行者利益が大きいのでしょうか。それともBtoBからスタートしたことが強みとなったのですか。
石橋 先行者利益というより、挑戦する市場がニッチであったことが大きいと思います。当社は、金銭的な利益を求めて始めたわけではありません。創業者が海難事故をきっかけに「船乗りの命を守りたい」という想いから事業を始めたのが原点です。その想いを愚直に実行し続けた結果、信頼を築くことができました。結果的には、それが先行者メリットにつながったと言えるかもしれません。
—— 御社の株主構成には公益的な姿勢が反映されているように感じます。
石橋 公益性は当社の事業運営の根底にあります。創業者の経験がこの考え方に大きな影響を与えました。また、株主には公益財団法人が含まれており、社会的使命を果たすことを重視しています。この姿勢が、事業拡大の中でも一貫している点だと思います。
—— 御社の競合はどのあたりになりますか。
石橋 株式市場では、直接的な競合はほとんどいない状況です。市場規模がそれほど大きくなく、参入障壁が高いことがその理由です。天気予報は基本的に無料で提供されるため、収益モデルを確立するのが難しく、またインフラへの初期投資やデータベースの構築には多大な時間とコストがかかります。
海外では、船舶ルーティングに特化したヨーロッパの企業や、アメリカのweather.comが存在します。ただし、我々のように陸海空の全分野に対応する企業はほとんどなく、競合は少ないと言えるでしょう。
ぶつかった壁やその乗り越え方
—— 困難を乗り越えるための対策についてお話しいただけますか?
石橋 私がジョインしたのは2000年ですが、それ以前から経営面では資金不足などさまざまな課題がありました。特に印象に残っているのは、コミュニティを作り、ユーザーからの情報を活用して天気予報を作るという企画です。この取り組みは、現在も当社の予報の中核となる重要な部分を担っています。
当時はガラケーで写メールを送るような時代で、GPSも始まったばかりでした。社内では「素人の情報を信じるのか」といった反対意見も多く、クラウドソースや集合知の活用に懐疑的な声が上がっていました。しかし、現地にいる人が最も正確に天候を把握しているという信念を持ち、この仕組みを実現したいと考えていました。
その転機となったのが、関東で雪が降った際の出来事です。関東では雪を観測する装置が少なく、予報が非常に難しい状況でしたが、ウェザーリポーター(コミュニティのユーザー)からの情報が状況を明確にしました。その時、予報センターの重鎮が「私たちはサポーターと運命をともにする」と発言し、コミュニティを活用する方向性が明確に定まったのです。 その後、リポーターからの情報を活用することで、予報精度とサービス品質を向上させました。現在では1日に20万通以上のリポートが集まり、当社の予報精度は業界トップクラスと自負しています。この仕組みが当社の強みとなり、信頼を得る大きな要因となりました。
今後の経営・事業の展望
—— 今後の経営や事業の展望について、特にM&Aやファイナンス戦略、新規事業の着想についてお話しいただけますか?
石橋 私がCEOに就任したのは今年6月ですが、このタイミングが非常に良かったと感じています。気候変動によって気象情報の重要性が増し、日本でも異常な暑さや台風の大型化が目立ち、個人・企業ともに危機感が高まっています。企業にとって天候リスクの管理はビジネスに直結する課題であり、我々も「Climate Impact(クライメイト インパクト)」というプロダクトを通じてリスク最適化を支援しています。
当社が蓄積してきた膨大なデータ、予報アルゴリズム、そしてコミュニティは、非常に強力なアセットです。しかし、ノウハウや技術がどれだけ豊富でも、マーケットが動いていなければ成長は難しいと考えています。現在、気候変動が世界的な重要課題として注目を集めているのは、私が2000年に入社して以来初めてのことです。この関心は一過性ではなく、今後も継続すると見ています。
さらに、AIやクラウド技術の進化により、人の手を必要とする作業を効率化する基盤が整いました。これにより、当社のコアサービスをより多くの分野に提供する機会が広がりつつあります。例えば、ウェザーニュースのアプリを企業の従業員全員に導入し、カスタマイズされた天候情報を提供することで、現場への迅速な意思決定をサポートすることが可能です。こうした取り組みにより、事業展開がさらに面白くなると感じています。
—— ファイナンスの観点から、M&Aなどについてはどうお考えですか?
石橋 当社は気象・気候を主なドメインとしていますが、親和性のある分野での市場動向を常に注視しています。現時点では具体的なM&Aの計画はありませんが、グリーンテックやグリーンビジネスとの連携には積極的です。他社のアセットとのシナジーが見込める場合には、提携や買収を前向きに検討する方針です。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZUU onlineユーザーに向けてメッセージをお願いします。
石橋 気象サービスは、現場の方々とともに作り上げることで進化し、社会を支える役割を果たせると信じています。そのため、私たちはお客様を「サポーター」と呼び、共に課題を解決していく存在と位置づけています。また、株主の皆様も「サポーター」として迎え、定期的に株主サポーターミーティングを開催し、双方向のコミュニケーションを大切にしています。
当社は急激な成長や投機的な魅力ではなく、安定した成長を目指し、長期的な視点で気象サービスを提供してきました。株主還元をはじめ、ステークホルダーの皆様とともに成長していくことが私たちの目標です。
気象と気候のビジネスは、今後さらに注目される分野だと確信しています。私たちの取り組みにご期待いただくとともに、多くの方にこの成長の機会にご参加いただければ幸いです。
- 氏名
- 石橋 知博(いしばし ともひろ)
- 社名
- 株式会社ウェザーニューズ
- 役職
- 代表取締役社長社長執行役員