2024年の振り返り

2024年の市場は、夏場に調整局面があったものの、年間を通して見れば株高・円安が進みました。また、日銀の利上げの影響などもあり、金利も緩やかに上昇しています。

2024年の主要な市場の変化は次の通りです。なお、2024年末と記載のあるデータは、2024年12月16日時点(円長期金利のみ12月13日時点)のデータとなります。

市場 2023年末 最高値 最低値 2024年末
(12月16日)
変化幅

長期金利
0.6470% 1.1060% 0.5630% 1.0550% +0.4080%
アメリカ
長期金利
3.8860% 4.7393% 3.6008% 4.3691% +0.4831%
日本株
(日経平均)
33,464.17 42,426,77 31,156.12 39,457.49 +5,993.32
+17.91%
アメリカ株
(S&P500)
4,769.83 6099.97 4,682.11 6,051.09 +1,281.26
+26.86%
ドル円 141.82 161.74 140.78 153.93 +12.11

上記を見ると一目瞭然ですが、円安・株高・金利上昇が進んだことがわかります。

日本国内で新NISAが始まり投資資金が海外資産に多く流れ、株高や円安の要因になりました。今年の前半は、アメリカの利下げ、日本の利上げのいずれもまだ始まっていなかったため、両国の金利差も円安を加速させる材料となりました。ただ日本銀行はマイナス金利の解除を3月に発表し、金融政策の正常化が意識され始めました。

7月に日経平均では史上最高値を更新して、一時は42,000円台に到達しました。その後、各相場が調整する動きが出ます。日本では7月の日銀会合で、金融政策の正常化へ向け0.25%へ引き上げを発表しました。アメリカでは、雇用市場の鈍化や景況感指数の悪化などを背景に、景気後退リスクが意識される状況に。イスラエルを中心とした情勢悪化も市場心理を悪化させ、一気に株安・金利低下・円高が進みました。

年後半の市場は日米でやや様相が異なります。アメリカでは、S&P500については下落一巡後は再び上昇基調となりました。景気動向については、緩やかに減速する「ソフトランディング」期待が高まります。FRBが利下げを開始して、経済を下支えするスタンスを明確にしたことも追い風要因となりました。

日本株は、方向感の欠ける値動きとなります。米株高や上記の景気ソフトランディング期待は下支え要因となりましたが、岸田首相の退陣や解散総選挙など、政局の不透明感が上値(うわね)を抑える要因となっています。また、日銀が緩やかな利上げを検討するスタンスを維持していることも、株にはネガティブ材料となりました。ただ金利は、利上げの可能性が相応にあると見込まれていた時期もありましたが、12月19日の日銀政策決定会合で見送りが決定しました。

為替については、9月ごろまでは円高が進み、一時は1ドル140円近辺の水準となりました。その後はトランプ氏の大統領選挙当選などにより、アメリカのインフレ、短期的な景気拡大期待などの影響で円安基調となりますが、夏場の水準には到達していません。

2025年の金融市場見通し

2025年の金融市場は、それぞれのセクターにおいて次のような動きが想定されます。

  • 金利は年間を通じて見ると上昇方向へ
  • 株は緩やかな上昇見通しだがリスクもある
  • 為替は方向感が出にくく、円高・円安双方のリスクに注意

それぞれの市場について、詳しく見ていきましょう。

金利は上昇方向が模索される

日本の金利については、通年かけて緩やかに上昇するとが想定されます。日本のインフレが2%程度で推移するうちは、日本銀行は金融緩和の正常化の余地をうかがうと考えられます。

すなわち、長期国債買い入れの削減と利上げを緩やかに実行するでしょう。アメリカの経済や金融政策に不透明要因がある中で、政策変更のペースは緩やかになると想定されます。しかし、利下げ・金融緩和に転じるとは考えにくく、結果として金利上昇が進む見通しです。特に、日銀の国債買い入れに支えられていた長期ゾーンの方が上昇しやすいと考えられます。

アメリカについては、年前半は利下げのタイミングを模索する展開が続くでしょう。アメリカは、2024年9月から利下げ局面入りしていて、2024年12月時点の予測値を見ると、2025年に2回(1回あたり0.25%を前提として)利下げする予想となっています。

しかし、トランプ氏が大統領に代わることで、徐々にインフレリスクが高まってくる見通しです。彼が実施を検討している減税や対外的な関税の引き上げは、多くが物価上昇を誘発します。

移民対策の強化に伴い人手不足が深刻化すれば、さらにその影響は強まるでしょう。年半ばから後半にかけては、インフレリスクを背景とした金利上昇が想定されます。結果として、年間を通じて見たときにはアメリカの金利も上昇を予測します。

株は緩やかな上昇見通しだがリスクもある

2025年だけで見れば、トランプ氏の各種政策は株価を緩やかに引き上げる要因となる見通しです。特に減税政策は、景気を下支えする効果が期待されます。ただし、すでにアメリカの株式市場はやや割高であるとの見方もあり、上昇幅は緩やかなものとなる見通しです。

日本についても、アメリカなど諸外国の好調な市場に牽引される形で株価は上昇する見込みです。ただし、日本の金融緩和の正常化や、石破政権が続くと仮定した際の政策への不透明感は、株価に対する日本固有のネガティブ材料となります。年を通じて見れば上昇し、最高値を更新する局面も想定されますが、アメリカ対比で出遅れる可能性があります。

なお、アメリカの株価上昇は「トランプ氏の政策の悪影響が限定的」であることが前提で、この点には不確実性があります。たとえば、中国に対して過度に強硬な姿勢をとって、関税による悪影響が早く表出すれば、株価に下落圧力がかかる可能性もあるでしょう。

為替は方向感が出にくく、円高・円安双方のリスクに注意

為替は全体として方向感がでにくく、年間を通じて見るとある一定の範囲内での推移となりそうです。金融政策だけを見れば、アメリカが利下げ、日本が利上げをうかがう足元の局面では、円高が進行しやすい状況です。実際に一時1ドル160円台を突破する水準から幾分円高となりました。

しかし、アメリカの中長期的なインフレリスクと、緩慢な日本の利上げにより、円高が一気に進む状況とはなっていません。もし、年後半にかけてアメリカのインフレが上向き始めた場合は、円高圧力は一段と後退する可能性もあるでしょう。各国の金融・財政政策と景気動向、インフレリスクが複雑に絡みあう中で2025年のドル円為替相場は方向感を見出しにくい状況が続きそうです。

2025年の注目テーマ

現時点において2025年の注目テーマは次の4点です。

  • トランプ政権
  • アメリカの金融政策
  • 日本の金融政策
  • 地政学的リスク

それぞれのテーマについて、どのような動向が想定され、またどの部分にリスクがあるのかをまとめました。

トランプ政権

トランプ政権の動向は、市場の主要な注目材料の一つとなります。トランプ氏の発言や政策内容により、市場変動をもたらす可能性があります。足元はトランプ氏の大統領就任に加えて、共和党が上院・下院の双方にて多数派を獲得する、いわゆる「トリプルレッド」を達成しています。そのため、トランプ氏の政策を通しやすい環境が整っているのです。

トランプ氏が、どのようなペース・強度で政策を実行していくかは、現時点では不確実性が高い状況です。基本的には、トランプ減税の恒久化を軸とした減税政策やエネルギー生産の規制緩和など、経済への好影響が明確なメニューから手がけていき、徐々に移民政策や関税引き上げなどを進めていく見通しです。

経済に配慮しながら政策を進めていく前提であれば、先に紹介した通り、2025年内で見れば株に好影響が期待できます。一方で、順序が変わったり、政策が想定よりアグレッシブなものだったりすれば、経済の下支え効果よりインフレの加速に対する懸念が高まり、期待よりも早期に景気悪化や株安をもたらすリスクもあります。

アメリカの金融政策

金融政策については、12/16執筆時点では不確実性が大きい状況ですが、今時点での見通しとしては「アメリカが緩やかな利下げ、日本が緩やかな利上げ」を実行すると見込まれます。

アメリカFRBは、2024年12月17~18日のFOMCで0.25%の利下げを実施し、2024年末時点の政策金利は4.25〜4.5%となりました。しかし、同時に発表された将来の見通しでは、9月時点の予測対比で2025年以降のインフレ率の見通しや政策金利の見通しが引き上げられています。そのため「タカ派的な利下げ」とも一部で言われています。

Variable Median1
2024 2025 2026 2027 Longer
run
Change in real GDP 2.5 2.1 2.0 1.9 1.8
September projection 2.0 2.0 2.0 2.0 1.8
Unemployment rate 4.2 4.3 4.3 4.3 4.2
September projection 4.4 4.4 4.3 4.2 4.2
PCE inflation 2.4 2.5 2.1 2.0 2.0
September projection 2.3 2.1 2.0 2.0 2.0
Core PCE inflation4 2.8 2.5 2.2 2.0
September projection 2.6 2.2 2.0 2.0
Memo: Projected
appropriate policy path
Federal funds rate
4.4 3.9 3.4 3.1 3.0
September projection 4.4 3.4 2.9 2.9 2.9

インフレ率=PCE inflation、政策金利=Federal fund rate
各項目上段が今回12月FOMCの予測値「Spetember projection」が9月時点の予測値

インフレ率は、9月時点では2025年末時点の予測が2.1%でしたが、今回は2.5%に引き上げられました。また、政策金利にあたるFederal Fund Rateは3.4%から3.9%となっています。

従来の予測値である3.4%を前提とすると、2025年は4回の利下げが予測されるところでした。しかし、今回の予測変更により、2025年中の利下げ回数は2回程度となる見通しです。以上のようなFRBのスタンスの変化は、金利上昇や円安をもたらす要因となる可能性があります。

日本の金融政策

2025年の日銀は、現時点では利上げの機会をうかがうと考えられています。12月の日銀政策決定会合が終了した直後の公表文でも「消費者物価指数については(中略)賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想」といった文言がみられ、引き続き物価の上昇を背景とした緩やかな利上げを見込んでいる様子です。

一方で、海外経済の不透明感や、企業の賃金設定(すなわち賃上げの動向)などが不確実性となるとも言及されています。アメリカ経済が想定よりも悪化したり、日本国内の賃金が物価上昇に伴わなかったりすれば、インフレ上昇率が想定よりも抑えられる可能性があるとみています。

以上のように日米の金融政策は、どちらの国も不確実性が高い状況となっており、特に2025年の為替や金利の変動要因となる可能性があります。

地政学的リスク

地政学的リスクについては、引き続き注意が必要です。2025年も引き続き、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢は市場の主要なリスク要因の一つとなります。一方で、トランプ氏はロシア情勢について、早期に収束させるスタンスを示しています。もしこれが実現した場合には、結果として市場にポジティブに作用する可能性もあるでしょう。

一方で、新たな火種として米中の関係悪化に注意が必要です。第一次トランプ政権の時代には、米中の関税引き上げが懸念材料となり、株式をはじめとした市場悪化を引き起こしました。当時の市場の動きを記憶する参加者も多い中、米中の関係性悪化は懸念材料の一つとなりそうです。

金利上昇リスクには留意も、日本の不動産市場が悪化するリスクは小さい

今回の記事では、2024年の総括と2025年の見通しについて解説しました。

不動産市場について考える場合には、適度なインフレはむしろ不動産価格や賃料の上昇をもたらし、追い風要因のひとつです。株価が緩やかに上昇し、経済に対する強い懸念がない状況が訪れれば、これも不動産にとっては好影響となります。

株や投資信託に対するリスク分散の先として、長期投資する先として、日本の不動産は引き続き有効な選択肢の一つとなるでしょう。

この記事を書いた人

伊藤圭佑
証券アナリスト
資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。
新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。