この記事は2024年12月4日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン補助金縮小とCPIへの影響」を一部編集し、転載したものです。
補助金縮小でガソリン価格は12月、1月に5円ずつ上昇
政府が11月22日に閣議決定した総合経済対策で、これまで年内限りとされていたガソリン補助金について、来年も延長することが決まった。ただし、注意したいのは、補助金が現行のまま単純に延長されるのではなく、段階的に縮小されることである。補助金が終了する場合と比べればガソリン価格は抑えられるが、現在との比較であれば価格は上昇することになる。消費者にとっては値上げにほかならず、今回の決定は補助金の「延長」ではなく「縮小」と認識される可能性が高いだろう。
補助金の仕組みは複雑だが、ざっくり言えば、12月19日以降の補助金は5円程度縮小、そして25年1月16日以降はそこからさらに5円縮小することになる。現在、補助金により1リットルあたり175円程度に抑えられているガソリン価格が、12月19日以降には180円程度、1月16日以降は185円程度に上昇するということだ。その先についてはまだ正式には決まっていないが、2月以降にはそこからさらに月5円程度ずつ、段階的に補助金を縮小させていくことが検討されている模様である(*1)。現在のガソリン価格は補助金がなければ1リットルあたり190円程度で推移しているため、2~3月頃には補助金は実質的に終了することになる。
*1:資源エネルギー庁のHPには「その後、状況を丁寧に見定めながら、185円を上回る価格に対する補助率を段階的に(月の価格変動が5円程度となるよう、原則月3分の1ずつ)見直す。その上で、燃油価格の急騰への備えとして、国民生活への急激な影響を緩和するための対応の在り方について、引き続き検討する」とある。185円までの上昇は決定。その先も補助の実質的な終了に向けて動いていくが、世論の動向をみながら検討するということだろう。
調査日によってCPIへの反映タイミングが変わる
この補助金縮小による消費者物価指数への影響を見てみよう。補助金制度の対象となっているのはガソリン、灯油、軽油、重油、航空機燃料であるが、このうち消費者物価指数に採用されているのはガソリンと灯油だけであるため、この2品目のみの影響を見れば良い(軽油、重油、航空機燃料の価格は消費者物価指数に反映されない)。
ここで注意する必要があるのが「調査日」だ。消費者物価指数では、日々の価格の月平均ではなく、調査日における価格がその月の値として反映されるため、調査日がいつであるかは重要だ。そして、消費者物価指数の元になる小売物価統計調査(*2)では、ガソリン、灯油は「原則として、毎月12日を含む週の水曜日、木曜日又は金曜日のいずれか1日を調査日としています」とされている。
*2:消費者物価指数の品目別価格は、小売物価統計調査で調査された小売価格を用いて作成される。
補助金が縮小される12月19日は、12日を含む週の翌週であり、12月分の調査日より後になる。そのため、12月のガソリン価格上昇(175円→180円)は12月分の消費者物価指数には反映されない(1月分で反映)。ここまでははっきりしているのだが、難しいのが1月16日からの補助金縮小である。25年1月16日は木曜日であり、「毎月12日を含む週の水曜日、木曜日又は金曜日のいずれか1日」に該当する可能性があるためだ。つまり、その月の調査日が水曜日(1月15日)であれば、補助金縮小よりも前になり180円→185円の価格上昇は1月分には反映されない(2月分で反映)。一方、木曜日(1月16日)、あるいは金曜日(1月17日)であれば、補助金縮小後の価格が1月分の値として反映される可能性がある。前者の場合は1月分で175円→180円への上昇分、2月分で180円→185円への上昇分が反映されるが、後者の場合には1月分で175円→185円分が一気に消費者物価指数に反映されることになる。補助縮小がガソリンの店頭価格に反映されるまでに数日かかるケースもあるとみられるため、1月16日以降の補助縮小の影響は1月分ではなく2月分で反映される可能性の方が高いのではないかと筆者は推測しているが、はっきりしたことは言えない。
CPIを0.3%Pt押し上げる可能性
ここでは便宜上、①補助金がない場合のガソリン価格を190円、②25年1月分の消費者物価指数で175円→180円、2月分で180円→185円、3月分で185円→190円のガソリン価格上昇分が反映、③灯油への補助金もガソリンと同額縮小される、と仮定する。なお、185円から190円への上昇についてはまだ正式に決定しているわけではないが、政府が補助金のさらなる縮小~終了の検討を進めている可能性が高いため、ここでは試算に含めている。
その場合、ガソリン補助金が現行のまま延長されたケースと比較して、消費者物価指数(生鮮除く総合)は25年1月に+0.09%Pt、2月に+0.18%Pt、3月以降は+0.27%Pt押し上げられると試算される。決して小さくはないインパクトである。
なお、政府はガソリン補助金の縮小・延長と合わせて、電気・ガス代の補助金について25年1月~3月(CPIへの反映は2月~4月)に期間限定で復活させる方針である。この電気・ガス代補助金により、消費者物価指数(生鮮除く総合)は25年2月と3月に▲0.4%Pt、4月に▲0.2%Pt程度押し下げられると試算される。
このガソリン補助金と電気・ガス代補助金の押し上げ・押し下げ寄与を合計すると、25年2、3月には電気・ガス代補助金の押し下げが勝るものの、4月にはガソリン補助金縮小による押し上げ寄与の方が大きくなり、5月以降の押し上げ寄与は+0.3%Pt近くに達することになる。物価は足元で高止まりが続いており、食料品価格の上昇もあって予想以上に鈍化ペースが鈍い状況にある。ガソリン補助金の縮小は、こうした物価の高止まりをさらに長期化させる要因となる可能性が高いだろう。
トリガー条項凍結解除の議論は進むか
ガソリン・灯油価格上昇に対する国民の拒否反応は大きいため、12月19日以降に予想されるガソリン・灯油価格の上昇については批判が出ることが予想される。実際、23年6月に補助金が段階的に縮小されたことがあったが、この時大きな批判が巻き起こった結果、補助金が再度拡大されたということもあった。また、ガソリンもさることながら、灯油についても問題は大きい。これから冬が本格化し、暖房需要が急増するなか、灯油価格の上昇が寒冷地の消費者負担増加につながることが予想される。
こうした状況を受けて、今後、トリガー条項の凍結解除の議論が盛り上がる可能性があるだろう(*3)。トリガー条項については論点も多く、政府は凍結解除への慎重姿勢を崩していない。また、自民党はガソリン課税について、自動車関係諸税全体の見直しと一体で来年末に議論する方向で調整に入った模様だが、国民民主党は早期の議論開始とトリガー条項凍結解除を主張する可能性が高いだろう。本稿では、ガソリン補助金の縮小と2月以降の実質的な終了を前提として試算を行ったが、事態は流動的であり、実際にこの通りに進むがどうかは分からない。今後の議論の進展に注目したい。
*3:トリガー条項の凍結解除が実施されても灯油価格は下がらないため、灯油については別途対応が必要になる。