馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

かつて一世を風靡した食品メーカー 石垣食品が、2024年に「ウェルディッシュ」へと社名を変更した。代表取締役社長に小松周平氏を迎え、凋落の危機にあった企業は、今、驚異的なスピードで再生を遂げつつある。

創業以来の技術と信頼を土台に、M&Aや新商品の展開を通じて、健康・美容分野における“選ばれるブランド”を目指すウェルディッシュ。その現在に、経済アナリスト 馬渕磨理子氏が迫る。

(左から)小松周平氏、馬渕磨理子氏
(左から)小松周平氏、馬渕磨理子氏
小松 周平氏
株式会社ウェルディッシュ 代表取締役社長
米系投資銀行やヘッジファンドで約10年間、トレーディング業務に従事し、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンで海外赴任生活を送る。帰国後は、エンジェル投資家、起業家として医療系、AIやドローンなどのテクノロジー系スタートアップの立ち上げに参画。2023年、SBCメディカルグループホールディングスアドバイザーに就任。2024年、ウェルディッシュ代表取締役社長に就任。
馬渕 磨理子氏
経済アナリスト/日本金融経済研究所 代表理事
京都大学公共政策大学院で法律、経済学、行政学、公共政策を学び、修士過程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事、大阪公立大学客員准教授に就任し、企業価値向上の研究を大学と共同研究している。イー・ギャランティ社外取締役。楽待社外取締役。

目次

  1. 一世を風靡した「フジミネラル麦茶」の石垣食品が社名変更
  2. わずか半年で苦境を脱し、2025年3月期に最終黒字を達成へ
  3. M&Aを推進し、BtoBからBtoCへの販路拡大も積極化
  4. 健康や美容における幅広い領域で存在感を発揮する企業を目指す
  5. 無担保転換社債型新株予約権付社債の発行による資金調達の目的

一世を風靡した「フジミネラル麦茶」の石垣食品が社名変更

馬渕氏(以下、敬称略) ウェルディッシュとは、2024年6月27日に小松さんが代表取締役に就任したのにあわせて商号変更が行われ、生まれた社名ですね。まだ馴染みのない投資家も多いかと思われますが、いったいどのような会社なのでしょうか?

小松氏(以下、敬称略) ウェルディッシュの前身は、1951年に香辛料の輸入事業者として創業した石垣食品です。当時の日本は高度経済成長期の最中で、水道インフラはまだ発展途上の段階にありました。そこで、創業者の石垣敬義氏は水道水にミネラルを配合することによって、栄養素が補われた美味しい水を創り出す技術を開発したのです。

1965年には「水にポンと入れるだけでOK」をキャッチフレーズに、世界初となる水出し麦茶パック「フジミネラル麦茶」を発売し、テレビCMを流したところ大ヒットを遂げ、世間で広く認知されるようになりました。私自身も、子どもの頃に母が作ってくれたこの麦茶を愛飲していました。

馬渕 小松さんは金融業界のご出身ですよね。どういった経緯で旧石垣食品の経営を担うようになったのですか?

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

小松 私は米系投資銀行やヘッジファンドで、約10年間にわたってトレーディング業務に従事し、長く海外生活を送ってきました。ただ、やはり日本のモノや文化が素晴らしいと思い、日本に住むことを決めました。帰国後は、投資やスタートアップ企業の立ち上げに参画してきたのですが、その頃、ふとした縁で前代表取締役の石垣敬義氏と知り合い、経営をバトンタッチしてくれないかと要請されたのです。

当時の旧石垣食品は、競合激化に伴って経営が悪化し、最終赤字が続いていました。債務超過に陥っていただけでなく、上場廃止基準にも抵触するという状況で、手元に残っているキャッシュはわずか700万円にすぎないという有様でした。正直、全然聞いてた話と違うなと思いました。

馬渕 まさに危機的な状況で、よくお引き受けになりましたね。そして、代表取締役に就任してからは凄まじいスピード感で経営のテコ入れを進め、わずか半年足らずで業績と財務が目覚ましく改善しています。具体的に、どのような手を打っていったのですか?

小松 私が最初に取り組んだのは、債務超過の解消でした。旧知のファンドなどに出資を依頼したのですが、上場維持に関する疑義注記が付いている状況だったので、なかなか引き受け手が見つかりませんでした。最終的には、株価を30%程度もディスカウントした条件で、どうにか2億円を調達し、まずは債務超過を乗り切ることができました。

次に着手したのは子会社の整理です。グループ全体の売上の8割を占める存在でしたが、ずっと赤字が続いていたので、迷わず売却を決断しました。そのうえで、昨夏からは原点回帰の方針のもと、食品事業への経営資源の集中を進めています。

わずか半年で苦境を脱し、2025年3月期に最終黒字を達成へ

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

馬渕 その結果、ここまで急激に業績が改善するとは、本当に驚きです。2024年4~12月期の連結決算では、前年同期が1億100万円の赤字だったのに対し、3億4,800万円の黒字を達成しています。また、2025年3月期の通期見通しも上方修正し、最終損益は前期の赤字から一転して4億円の黒字予想ですね。

小松 2025年3月期の売上は、前期とほぼ同水準の20億円程度ですが、約1億2,000万円の赤字だった営業損益は1億8,000万円の黒字を見込んでおり、どうにか真っ当な会社に蘇らせることができそうです。お陰様で食品事業においてオーダーが殺到し、工場がずっとフル稼働の状態ですので、来期の売上も拡大、来々期はジャンプするといった倍々ゲームも、けっして夢ではなさそうです。

馬渕 そのようなV字回復を見越していたのか、御社の株価上昇も素晴らしかったですね。足元では横ばい状態が続いているものの、小松さんが代表取締役に就任してから約半年間の急騰ぶりには眼を見張るものがありました。

小松 就任してから半年間の株価上昇は、「期待値相場」の恩恵を受けられたことに起因していると思っています。それ以降は「業績相場」へと移行しているので、着実に業績を拡大させていくことが最重要であると認識しています。

馬渕 食品事業ではどのような方向へと原点回帰し、主にどういった方面からオーダーが相次いでいるのでしょうか?

小松 もともと旧石垣食品はミネラルを健康食品に活かす技術や知見を強みとしており、レトルト食品などの商品ラインナップも豊富に有していたのですが、経営が悪化する中で縮小させていました。そこで、それらを業務用として復活させ、主に病院給食向けに提供を始めたところ、すぐに売上と利益が拡大していくようになりました。

また、ビーフジャーキーのOEM製品の受託加工も伸長しています。主要取引先様がアジアで500店舗まで拡大する方針を打ち出しており、その実現に向けて新規出店を進めています。当社としても、その受注拡大に対応するため、生産設備の増設を進めています。

M&Aを推進し、BtoBからBtoCへの販路拡大も積極化

馬渕 M&Aにも積極的に取り組まれているようですが、それらの施策にはどのような狙いがあるのでしょうか?

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

小松 M&Aについては、食品・飲料の分野で相乗効果をもたらす可能性が高い領域にフォーカスを当てるとともに、これまでBtoB(業務用向け)であった商品のBtoC(一般消費者向け)への販路拡大も念頭に置きながら推進しています。

たとえば、子会社化に踏み切ったハーバーリンクスは、ウェブやSNSを通じたマーケティングに強みを持ち、BtoCにおける販売力の高さが光っていました。一方で、当社は食品事業で培ってきた技術を活かし、ミネラルを抽出した化粧品(メディアートブランド)の開発も手がけてきました。これまでメディアートブランドのコスメ商品は卸売専門でしたが、今後はハーバーリンクスの販路を通じてBtoCへの展開も進めていく方針です。

同様に、当社が子会社化を決めたグランドルーフは、福祉施設や医療施設向けに、介護用品の卸売やフード提供サービスの運営受託を行っている企業です。当社グループは、ミネラル食品・飲料に加えて健康食品の開発や福祉施設向けのレンタル卸売にも強みを持っており、これらのノウハウをグランドルーフで活用することが子会社化の狙いです。さらに、グランドルーフがフード提供サービスを通じて培ってきた介護食・病院食に関するノウハウを、当社の商品開発にも活かしていく考えです。

健康や美容における幅広い領域で存在感を発揮する企業を目指す

馬渕 つまり、ウェルディッシュは、健康や美容に関する幅広い商品やサービスを取り扱う企業になろうとしているわけですね。「ウェルディッシュが取り扱っているものなら大丈夫」という安心感を与えるブランド作りを進めている、ということでしょうね。今後の成長戦略について、もう少し詳しくお聞かせください。

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

小松 当社は昨年11月に中期経営計画を策定し、2026~2028年度を「成長基盤構築・収益力強化期」と位置付けたうえで、商品ラインナップの強化やサービスを展開する施設の拡大、それらを実現するためのM&A戦略を推進していくことを公言しました。

その一環として、食品業界において経営者の高年齢化に伴う後継者不足による事業承継ニーズが拡大していることに注目しています。当社グループが手掛ける事業との間で相乗効果が得られることが期待される案件が浮上した場合には速やかに精査し、中期経営計画の達成に結びつくと判断できれば、M&Aで傘下に収めていく方針です。

馬渕 小松さんが思い描くシナリオ通りに成長戦略を達成していけば、おのずと株式市場における御社の時価総額も拡大していくことになりますね。それが現実となった場合、さらにどういったことを展望していますか?

小松 時価総額が500億円程度まで到達すれば、さらに可能性が広がっていくと思います。機が熟せば、「小が大を飲む」ようなM&Aに挑戦してみたいですね。

無担保転換社債型新株予約権付社債の発行による資金調達の目的

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

馬渕 今年2月に新たな資金調達計画を発表されていますが、なぜ無担保転換社債型新株予約権付社債を選ばれたのでしょうか?また、調達した資金の主な使い途についてもお聞かせください。

小松 今回の資金調達の主な目的からご説明しますと、まずは借入金の返済を進めて経常利益へのマイナスの影響を軽減させること、さらにM&Aを推進していくための元手を確保すること、海外における生産拠点を拡大すること、そして当社株式の流動性を高めることなどが挙げられます。

当社には依然として継続企業の前提に関する疑義注記が付与されており、金融機関から新たな借入れを見込むのが難しいことから、新株予約権付社債による資金調達を選択しました。

新株予約権付社債の利点は、普通社債と比べて低コスト(ゼロクーポン)で資金調達ができることです。また、転換社債型なので株価が上昇すると株式に転換され、返済義務がなくなるのも当社にとってのメリットです。加えて、株価が上昇した際には既存の株主の皆様が保有する株式の価値も高まり、発行済株式数の増加によって市場における当社株式の流動性も向上します。

馬渕 新たに小売向けのペットボトル入り飲料もローンチされたそうですが、新株予約権付社債の発行で得た資金は、こちらの販促にも投入する予定ですか?

馬渕磨理子氏が迫る 急成長ウェルディッシュの現在地

小松 今年の3月下旬から、一部のコンビニやスーパーの店頭に並び始めたペットボトル飲料「金色麦茶」は、当社が自販機市場に参入するための戦略商品です。自販機市場は非常に規模が大きく、ほんの一部のシェアを獲得するだけでも、収益インパクトはけっして小さくありません。

旧石垣食品は、水出し麦茶で一時は頂点に立っていたものの、飲料業界における“ドル箱”であるペットボトル市場に踏み出せなかったことで、次第に凋落してしまいました。再び世間で広く認知され、自販機の商品ラインナップに加わっていくためには、マーケティングや広告宣伝に注力することが不可欠です。

今回の資金調達を機に、本格的に知名度向上に向けた戦略を積極的にスタートさせていきますので、株主や投資家の皆様にも大いに期待していただきたいと思います。