◉後継者教育の際の注意点


後継者としてふさわしい人物を選定した後は、後継者教育を行うこととなります。後継者教育は、経営大学校などの外部機関を利用することも可能ですが、OJTとして社内で少しずつ経営を任せることも重要です。
この際に最も注意していただきたいポイントとしては、後継者に致命的な失敗だけはさせないように配慮することです。

経営判断は流動的ですから100%先を読むことは不可能といえます。そのため、経営上の判断を誤ってしまうことも十分にあり得ます。ある程度の失敗はつきものと言えるでしょう。
しかし、重要な取引先をなくしてしまったり、会社が傾くような経営判断上の失敗をしてしまえば、後継者としての適性を内外から疑われることとなります。

この場合には、そもそも後継者の選定に問題があったとして人選を考え直す余地もありますが、経営というものの難しさからすれば、少なくとも後継者「候補」である間は、結果責任を問うべきではないケースもあります。結果責任を問う形とすれば、後継者候補は萎縮し、次代に合致した新しい事業にチャレンジすることができなくなります。
そこで後継者としてふさわしいといえる人物として選定した以上は、可能な限り後継者として教育を施し、後継者としてふさわしくないという烙印を押されるような失敗だけは避けることができるように配慮することが重要だと私は思います。


◉後継者の株式買取りの資金調達能力の確保


3つ目に、やや法務手続きも関連することとなりますが、会社の後継者として経営権を把握させるためには、後継者に株式を取得するための資金を調達することが必要です。後継者は会社経営権を把握するために、少なくとも発行済株式の過半数を取得することが必要ですので、この株式の買取資金が必要です。この買取資金を調達することが現実的な問題として生じてきます。

後継者候補の方は必ずしも潤沢な資産家あるとは限りませんので、資金調達の方法としては経営承継円滑化法の利用に基づく政府系金融機関の利用がおすすめできます。
平成20年に制定された経営承継円滑化法により、一定の手続きを行った場合には、後継者の方は低利子で株式の買取り資金を日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫・いわゆる国金です)などから借り入れを行うことができるようになりました。
この借り入れは会社を継ぐための後継者の方の個人的な借金となります。借り入れを行い、自ら負債を負ってまで事業を承継するという覚悟がある方にこそ、事業を承継するためにふさわしいということもできると思います。


◉まずは後継者選定の着手から


以上述べましたことをまとめますと、後継者選定にあたってのポイントは、

①血族か第三者かにこだわらずに会社の事業を継ぐにあたってふさわしい人物を選ぶこと
②後継者教育の際には経営判断ミスへ十分の配慮をすること
③後継者に株式の買取資金を確保させること、その際には経営承継円滑化法の手続きを経て政府系金融機関からの借入も利用できること

になります。

事業承継にあたっては、後継者の人選の問題以外にも、事業を承継しない相続人とのバランスを図ることや、税金の問題などが生じえます。事業承継は容易な手続きではないと言えますが、決して解決不可能な問題ではありませんし、経営者様が生涯かけて築かれた様々な資産を次世代に残すことには大きな意義があります。早めの事業承継対策への着手をされることを願ってやみません。
まずは、周囲を見渡し、事業を承継させるためにふさわしい人選を考えられることから考えられてはいかがでしょうか。

BY S.K(行政書士)

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