未知の領域での意思決定、自身の尺度を持ち損得判断を
企業の中で地位が上がるほど、難しい判断を求められる場面も増えてゆく。自社製品についての判断ならば自信を持って行うことができても、社内情報システムの導入など専門外の判断を求められ、悩んだ経験を持つ人は多いだろう。下から上がってきた稟議書を見て、その内容に詳しい人物の印があるのを見て、とりあえず承認してはいないだろうか。
知らない分野において、意思決定をするための技術体系が存在する。経営学のうち経済性工学と呼ばれる分野である。もともと、損得の判断が下手な技術者でも、最低限の損得判断をするための枠組みとして広まった理論と技術なのだ。経営について不得手な人でも、判断の根拠を数字に落とし込み、共有することができるのがその特徴である。一例として、新規の機械を購入すべきか否かを、経済性工学の理論にあてはめて判断してみたい。
製麺機を買ったラーメン店は、投下資金を何日で回収できるか?
新規の機械を購入した場合、どの程度の期間で回収できるかは重要な指標となる。その一方で、計算間違いを犯しやすい数値でもある。
問題をシンプルにするために、誰もが知っているラーメン店をモデルにしよう。取り立てて特徴はないが、駅前の立地に支えられている個人商店を考えてほしい。1杯500円、1日200杯。1日10万円の売り上げを見込むラーメン店である。ラーメンのスープは業務用を使用しており非常に安価で、原料コストの高い麺は製麺所から一玉50円で仕入れている。
ある日、この店の店主がメーカーから新しい製麺機の導入提案を受けた。600万円もする機械だが、今までと同品質の麺が、店内において完全自動で製麺できるそうだ。この機械を使えば麺のコストは1玉20円まで下がり、30円もコストを圧縮できる。一見、よさそうな提案だが、購入資金に余裕がある訳ではない。この機械を導入した場合は、一体どの程度の期間で回収でき、さらに得となるのだろうか。