新ホテルの特色

こうして産みの苦しみを味わった新ホテルだったが、平成18年にグランドオープンとなった。旧ホテルは自分で建てたものではなかったこともあり、新ホテルには同氏の思い入れが詰まっている。

まずは全体のコンセプトについて、建て替え当時、都会ではニューヨークスタイルのホテルがブームだったというが、「酒田でニューヨークはないだろう」と、1年の半分が寒いなど環境が似ている「北欧テイスト」をテーマに据え、設計士とともにフィンランドやデンマークへ視察に行った。北欧諸国は国民幸福度が高いことも、モデルにした理由だという。様々な人がそれぞれの目的で集まるコミュニティーホテルを目指したという同氏は「単なるビジネスホテルではなく、食事を楽しみに来たり、音楽の演奏を楽しみながら食事をしたり、そういうホテルにできればいいなという思いで建て始めました」と語る。

各部屋についても、「部屋が狭くて暗く、バスルームも段差が高かった旧ホテルとは逆のものを作りたかった」という同氏。広くとったバスルームはユニットバスではなくすべてタイル張りで、さらに段差のないフラットな作りにすることで車椅子でも入れるバリアフリーな環境を実現した。また、シングルルームにも140cmと幅の広いベッドを入れ、「安眠できる部屋づくり」を目指したという。

建設から8年目の平成26年には、最上階である10階に眺望の良さを活かしたパーティールームを新設し、10月から稼働を開始している。実は旧ホテルの最上階にはレストランがあったが、新ホテルの最上階にはレストランをあえて設けていなかった。なぜ展望レストランを作らないのかと言われることも多いというが、同氏は「そういう人が月に1回食事に来るかというとそんなことはなくて、せいぜい年に1度来るかどうかです。ビルやホテルの最上階のレストランというものは、そう利用率の高いものではないんです。収益が出なければやる意味はないですから」と語る。

最上階は「(建設から)7~8年経って、(新築ホテルの)魅力が薄くなってきたときに新たな投資ができるように」開けておいたという。パーティールーム開設にあたっては、行政に経営革新計画を申請し、ものづくり補助金の給付を受けることになった。ものづくり補助金はこれまで製造業のみを対象とした施策だったが、2014年からはサービス業も対象となり、金融機関の勧めもあってチャレンジしたという。

予約専用のパーティールームには、常設レストランはもちろん厨房も作っておらず、料理を出す場合にはメインの厨房で作ったものを、温かいものはホットワゴン、冷たいものはコールドワゴンに入れて、エレベーターで上げている。新ホテルの厨房は、和洋中すべてに対応できる厨房が1カ所のみだ。

というのも、旧ホテルには1階に和食レストラン、2階に宴会場、そして最上階レストランと3カ所の厨房があり、運用費など様々な面で無駄があったという。新ホテルでは厨房を1カ所にまとめて効率化、さらに火を使わないオール電化にすることで、安全面や従業員の労働環境も改善している。