10年で冷熱システムも大進化

利雪研究者で新潟県の公益財団法人「雪だるま財団」の主任研究員伊藤親臣さんによれば、2013年度現在、雪冷熱エネルギーシステムを導入した建築物は全国で自治体関連施設を中心に150棟ほどあるという。ただ「これまでの取り組みを考えると歩みは遅い」とも。

だがその歩みも、2011年に起こった東日本大震災を機に変わった。太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの一つとして、雪に注目が集まったのだ。

伊藤さんのもとには「雪室を使った貯蔵施設はないか」、「雪冷熱エネルギーシステムを利用した工場をつくれないか」といった問い合わせが舞い込むようになった。

伊藤さん自身も、これまでの取り組みの方向性を見直した。従来は雪冷熱エネルギーシステムの普及ばかりに目を向けていたが、雪室で熟成させた食品を東京都内の百貨店で販売するなど、雪がつくりだす様々な価値の見える化にも力を入れるようになった。

「反応はいいです。電気で低温貯蔵した食品に比べ、雪で低温貯蔵した食品は味がまろやかになることは分かっていた。でもそのメカニズムが分からなかった。それが分かってきたので自信を持って売ることができます」

貯蔵技術もずいぶん進化した。夏になると溶けてしまうというイメージがあったが、技術進化で次のシーズンまで残せるようになり、ITを使って大量の雪の温度や湿度調節も細かく制御できるようになった。

「雪さえあれば冷房費がかからないのです。新潟の場合、高速道路のそばに施設をつくれば東京から2時間半で来れる。電気で冷やしていた企業にとっては魅力的だと思います」