日本が高度成長を果せた一つの要因は「アナログ時代」だったことである。社会、経済の進歩がアナログスピードであったために、長い期間労働集約型産業が存続することができ、多くの雇用が守られた。

その結果30年近く第2次産業就業者比率が30%以上に保たれ、それが「分厚い中間層」形成の大きな原動力となった(2013年の第2次産業就業者比率は24%まで低下)。

これに対して「デジタル時代」に台頭してきた中国。世界第2位の経済大国なり、第3次産業就業者比率(2013年時点で39%)が第1次産業就業者比率(同31%)を上回った段階で、労働集約型産業は他のアジア各国にシフトし始め、国内では生産効率を高めるために無人化工場が増加してきている。

これは、既に中国は大量の労働力を必要としない社会に向かっているということであり、高度成長期の日本のように「分厚い中間層」を築くために必要な第二次産業就業者比率(同30%)を形成し、長時間維持するのは難しいことを示している。「分厚い中間層」を形成するのに必要な十分な時間を得られないとしたら、その結果である「世界最大の消費市場」という地位を維持していくことも難しいということになる。

「デジタル時代」の寵児として短期間のうちに疾風のように世界第2位の経済大国に成長してきた中国。これまでフォローの風として背中を押してきた風は、今後向い風となって吹き付ける可能性がある。中国の今後を、日本の「アナログ時代」の経験をそのまま当てはめ、「中国経済は今後とも高成長を続ける可能性が高い」と結論付けるのは危険であるといえる。


「普通の経済大国」に向かい始めた中国

2008年のリーマンショック以降、財政的制約を抱える先進国が金融政策による片肺飛行で景気回復をはかるなか、中国は4 兆元(約 56 兆円)に及ぶ大型景気刺激策を打ち出した。その結果中国は世界に先駆けて景気回復を果たし、2010年には日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出た。

その中国が、ここにきて大幅な金融緩和政策をとってきたということは、中国が「普通の経済大国」に近付いたことの証左でもある。先進国の多くが「金融政策に頼る片肺飛行による景気回復」の難しさを実感しているなか、「普通の経済大国」に近付いた中国が金融政策によって短期間で景気回復軌道に戻るというシナリオは幻想かもしれない。

日本では日本経済のリスクは中国の景気鈍化など海外要因にあるといわれている。しかし、中国が「普通の経済大国」に向かい始めた今、中国に日本や世界経済の牽引役を求めるのは「ないものねだり」でしかない可能性があることは認識しておくべきである。

ここ数年、日本経済は4兆元にも及ぶ大型景気刺激策によってリーマンショックから真先に立ち直った中国の姿を、中国の真の実力であるとの前提に立ち、中国経済の拡大を前提とした景気回復シナリオを描いてきた。しかし、こうした発想が今後の日本経済のリスクになるかもしれない。

「ドックイヤー」「マウスイヤー」のなかでは、かつてないスピードで中国が「普通の経済大国」に向かう可能性があることを念頭において経済運営を進めることが賢明であるように思えてならない。

近藤駿介 (評論家、コラムニスト、アナザーステージ代表)
約20年以上に渡り、野村アセットを始め資産運用会社、銀行で株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資等様々な運用を経験。その他、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・運用責任者を務めたほか、投資信託業界初のビジネスモデル特許出願を果たす。現在は、 「近藤駿介流 金融護身術、資産運用道場」 「近藤駿介 In My Opinion」 「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」 などを通じて、読者へと金融リテラシーの向上のための情報発信をおこなう。

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