米連邦準備理事会(FRB)が2015年中に金融引き締めに転じる方向を示し、新興国経済が試練を迎えようとしている。

国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が2015年3月、訪問先のインドの講演で、「米連邦準備理事会(FRB)の事実上のゼロ金利政策解除が近づいており、新興国は市場の急変動に備えて、全速力で準備を進める必要がある」と警鐘を鳴らしたことは記憶に新しい。

米国では早ければ2015年6月にも利上げが予定されており、利上げにより世界の投資マネーの流れが変わり、新興国から投資資金が引き揚げられ、多大な影響を受けることになる。


利上げは米国のみならず、世界経済全体に影響を与える

「利上げ」が世界経済に与える影響を決して軽視すべきではない。2013年5月、当時のバーナンキFRB議長が、「米金融当局は資産購入を徐々に縮小(テーパー)する」と述べた事で、投資マネーが新興国から流れ出ていき、新興国の債券相場が一時10%下落、インド・ルピーやトルコ・リラ等の通貨が売り込まれ、市場に大きな衝撃を与えた。

今回FRBが利上げに舵を切れば、これまで続けられてきた緩和的な金融政策によって、新興国から米国へと投資マネーが回帰する事で、2013年5月とまったく同様の混乱を招く可能性がある。

ニューヨーク連銀のダドリー総裁も、「利上げは米国だけの問題ではなく、特に新興国経済への目配りが必要だ」と述べており、利上げに伴い、新興国経済が多大な打撃を受ければ、金融システムが不安定化する事は明白だ。


新興国の民間部門は多くのドル建て債務を抱えている

また、国際決済銀行(BIS)は四半期報告書において、「新興国の借り手は2.6兆ドル相当の国際債務証券を発行し、そのうち75%が米ドル建てで発行された」と指摘しているように、新興国経済の民間部門が多額の債務を抱えており、その債務の多くが米ドル建てである事も見過ごしてはならない。

クリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏は、英フィナンシャル・タイムズへの寄稿において、同様の懸念を表明しており、「米国経済はグローバル経済とかつてない程にリンクしており、米国の利上げとドル高で、新興国企業の社債の巻き戻しが起こる可能性がある」と述べ、米国の利上げに伴い、新興国内に信用収縮が起こるリスクについて言及している。