5月21、22日の日銀金融政策決定会合は政策の現状維持となった。「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させる現行のコミットメントを続ける。

日銀のコミットメントに反し、消費税率引き上げ後の需要停滞と原油価格の下落などにより、消費者物価指数の伸びが止まってしまっている。前年同月比では年央には若干のマイナスまで落ち込むリスクも残っている。

4月30日に公表された展望レポートでは、2015年度の消費者物価(除く生鮮食品)見通しは、この鈍化を織り込み、前年比+1.0%から+0.8%まで引き下げられた。そして、正式に安定的な2%の物価上昇の達成時期を、「原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になる」と、「2015年度を中心とする」期間から後ずれさせた。

ここ数回の決定会合で、消費者物価の前年比はと「当面0%程度で推移する」と、若干下落するリスクがあることを既に織り込んだが、追加金融緩和をしなかったことで、早期の追加金融緩和の可能性は低下している。

2016年度の2%程度の物価上昇率の予想が維持されている限り追加金融緩和はなく、追加金融緩和にはそれが大幅に下方修正されることが必要であるというのが日銀の方針だと考えられる。


物価上昇率の伸び悩みで現実味を帯びる追加金融緩和

しかし、日銀が織り込んでいるとしても、年央に物価上昇率が伸び悩んだ状態が続けば、状況が変化してくる可能性が高い。物価上昇が止まったという報道が多くなることにより、期待インフレ率が低下するリスクが大きくなるからだ。日銀が重要視している短観の企業の期待インフレ率も、10月1日公表の9月調査で低下が確認されるだろう。

そうなると、昨年10月に日銀がマーケットの予想に反して追加金融緩和に踏みきったことが意味を持ち始める。日銀は、「原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある」と、追加金融緩和の理由を説明していた。

再び同じような状況に陥いる可能性が高く、同じロジックによる期待がマーケットで高まり、追加金融緩和が現実味を帯びてくることになるだろう。

4月の展望レポートでも、「現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある」と指摘しており、その伏線は敷かれている。これまで弱かった輸出と生産が堅調に増加を始めていることが確認され、循環的な景気回復力は強くなってきており、景気のダウンリスクは減じている。

5月の決定会合では、景況判断は、堅調であった1-3月期の実質GDP成長率(前期比年率+2.4%)などをうけ、「緩やかな回復を続けている」と、4月までの「緩やかな回復基調を続けている」からより回復の表現を明確化した。

4月以降の賃金上昇の影響が強くなり、原油価格下落の影響が剥落していく7-9月期以降は物価上昇率も持ち直すとみられ、日銀は辛抱強くそれを確認しようとするだろう。


量より質の面の緩和を強調

しかし、10月には物価上昇率の持ち直しが、「2%の物価安定の目標」を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」には弱すぎることを確認し、追加金融緩和が実施されると考える。

その時点で見直される展望レポートで、2015年度の物価上昇率の予想を更に大きく引き下げ、2016年度の予想も+2%から引き下げ、早期の2%の到達が困難であることを正式に表明するだろう。

そして、目標の達成時期をこれまでの「2015年度を中心とする期間」の範囲内である「2016年度前半頃」から、2017年度の前半も視野に入れた「2016年度を中心とする期間」へ正式に後ずれさせ、その実現をより確かにするための追加金融緩和という位置づけを明確にするだろう。

マネタリーベースを「年間約80兆円」から「年間約85兆円」へ増加させ、その増加分の過半はETFを含めたリスク資産の買い入れでなされ、量より質の面の緩和を強調するだろう。

昨年12月の衆議院選挙、今年4月の統一地方選挙、そして9月の自民党総裁選挙までの選挙期間中は、円安で負の影響を受ける人々(消費者、非製造業、中小企業、地方など)への配慮から、安倍首相も大きな円安につながる可能性のある追加金融緩和をそれほど望まないと考えられる。

しかしそれ以降は、デフレ完全脱却の実感につながる株式市場の更なる上昇のためにも、日銀の追加金融緩和を望むように変化してくると考えられる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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