3.納税管理人がいるかどうかで申告が変わる

出国する人の手持ちの株やデリバティブの含み益部分について課税される。含み益部分を計算するということは、すなわち、株やデリバティブについて時価評価をしなくてはならないということだ。ただ、この時価評価の時点や出国税の申告時期は、納税管理人(出国する人の代わりに日本国内での納税や税務申告を行ってくれる人)の届出を出国前にするかどうかで変わってくる。

(1)納税管理人の届出をしてから出国する場合
時価評価の時点は出国日。申告納付は翌年3月15日まで。
(2)納税管理人の届出をしないで出国する場合
時価評価の時点は出国日の3か月前の日。申告納付は出国日まで。

つまり、納税管理人がいるならば、出国する人の代わりの申告や納付手続きをやってくれるので、焦る必要はない。しかしいない場合は、出国する前に自分できちんと申告と納税しなくてはいけないということだ。


4.一時的な単身赴任などの場合には救済策アリ

基本的に、1.の要件に該当する人は、その出国理由や資産状況に関係なく、誰でも出国税を納めなくてはならない。しかし、国税庁が本当に課税したいのは、2.に掲げたような「いかにも課税逃れしたい富裕層」であって、悪意のない人ではない。そのため、国税庁は更正の請求や納税の猶予という救済措置を設けている。

更正の請求とは、一度納めた税金の還付手続きのことだ。出国はしたものの5年以内に日本に帰国した場合は、課税逃れの可能性がなくなるので、更正の請求をすることで一度納めた出国税を還付してもらうことができる。ただし、この手続きそのものは、帰国した日から4か月以内に行わなくてはならない。

また、「すぐに日本に帰国する予定だし、1億円以上なのは株だけ。手元に現金がなくても出国税は納めないといけないのかな」と納税資金の心配をする人もいるだろう。この場合、納税の猶予という届出をすることで、納税を延期してもらうことができる。つまり、すぐに納付しなくてもよくなるということだ。

ただし、出国税と利子税の合計相当額の担保が必要になる。さらに、この届出自体は、毎年3月15日までに行わなくてはならない。また、最大5年間(延長の届出をすれば最大10年間)納税を猶予してもらえるが、期限を過ぎても帰国しない場合や株を移住先で売ってしまった場合には、猶予が取り消されて出国税をあらためて納付することになる。

出国税創設の本来の目的は、あくまで日本や海外の株式等を大量に保有している同族会社のオーナーやファンド関係者の課税逃れを防止することである。そのため、一時的な海外赴任者については、事後や事前に対策を取ることで課税を防ぐことはできる。ただ、一人で対策を取ることが難しいの場合は、一度専門家に相談するのがよいだろう。

鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち、会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら、税理士試験の受験勉強を続け、2009年に合格。2012年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫と共に、外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。また、2014年から、国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。8歳、5歳、2歳の三姉妹の母。

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