■改善に向かう2015年度の所得環境

このように、2014年度の個人消費を取り巻く環境は極めて厳しかったが、2015年度は改善に向かうことが予想される。2015年度の春闘賃上げ率は前年度を上回り、企業業績の好調を受けてボーナスも増加しそうだ。また、実質賃金を大きく押し下げていた消費者物価上昇率は原油価格の下落を受けて大きく低下しており、2015年夏場にはマイナスとなることが見込まれる。2015年度の実質賃金は5年ぶりの増加となる可能性が高い。

また、削減が続いてきた年金給付額は2015年度には0.9%の引上げとなった。もちろん、マクロ経済スライドの適用や特例水準の解消によって引き上げ幅は抑えられているため、これまでの落ち込み分を取り戻すことはできない。

ただ、2015年度単年度で考えれば、物価上昇率がほぼゼロ%となるため、実質ベースの可処分所得の伸びは若干のプラスとなるだろう。2015年度は勤労者、年金生活者ともに実質所得の改善が見込まれ、このことが個人消費の回復につながることが期待される。


実質成長率は2015年度1.8%、2016年度1.9%を予想

原油安の恩恵を受けた国内景気の回復基調は今後も継続することが見込まれる。個人消費は名目賃金の上昇に物価上昇率低下による実質賃金の押し上げ効果が加わることにより、回復基調が徐々に明確となるだろう。ガソリン価格下落や株高を受けてここにきて消費者マインドが改善していることも個人消費を下支えしそうだ。

また、2014年度末にかけてようやく持ち直しが明確となった設備投資は、原油安を受けた企業収益のさらなる改善を背景に回復基調を続ける可能性が高い。

一方、中国、新興国を中心とした海外経済の減速に伴い輸出は伸びが鈍化し、公的固定資本形成は減少を続ける公算が大きく、外需、公需による景気の押し上げは期待できない。

2015年度から2016年度にかけては国内民需中心の成長が続くだろう。実質GDP成長率は2015年度1.8%、2016年度が1.9%と2年続けて2%近い高成長になると予想する[図表4]。

実質GDP成長率

■消費者物価はいったんマイナスへ

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2013年6月に前年比でプラスに転じた後、2014年4月には前年比1.5%(消費税の影響を除くベース)まで伸びを高めた。

しかし、その後は原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下、消費税率引き上げによる景気減速の影響などから2014年度末にかけてほぼゼロ%まで伸びが鈍化した。コアCPIはエネルギー価格の下落幅が最大となる2015年夏場にかけては上昇率がいったんマイナスとなる可能性が高い。

一方、物価上昇がある程度継続してきたこともあり、かつてに比べて企業の値上げに対する抵抗感は小さくなっている。実際、食料品を中心に原材料価格の上昇に対応した価格転嫁の動きはここにきてむしろ加速している。コアCPI上昇率は前年比でゼロ%となったが、品目数でみれば上昇品目数が下落品目数を大きく上回っており、基調的な物価上昇圧力の強さを示している。

また、潜在成長率を大きく上回る成長を続けることで、需給面からの物価押し上げ圧力も徐々に高まっていく。コアCPI上昇率は原油価格下落の影響が小さくなる2015年末までには再びプラスとなり、原油価格の上昇に需給バランスの改善が加わる2016年度入り後は1%台まで伸びを高めるだろう。年度ベースでは2015年度が前年比0.3%、2016年度が同1.4%と予想する。

三尾幸吉郎
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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