アパレル業界に地殻変動が起きている――。

大手アパレルメーカーのワールドは、2015年5月に、不採算10~15ブランドの廃止ならびに直営店400~500店の閉鎖を発表した。廃止するブランドは全体の1割強、閉鎖する店舗は全店舗の約15%に相当し、過去最大の規模となる。さらに6月28日には、希望退職者500人を募り、大規模なリストラに踏み切った。

ワールドだけではない。そのほか大手企業でも、ブランド・事業の見直しが相次いでいる。5月にはTSIホールディングス <3608> が、子会社2社を含む不採算11ブランドの廃止を発表した。約800名の従業員は再配置を行うほか、希望退職者も募る。

競争の激化が不調の原因?

2007年3月期には売上高3,000億円を突破、営業利益は過去最高の213億円と、絶好調だったワールドだが、なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか?

元々卸事業中心のアパレルメーカーだったワールドだが、93年に卸事業からSPA事業中心へと大きく舵を取り始めた。百貨店やファッションビルを中心に次々とSPAブランドを立ち上げ、大型商業施設の出店ラッシュの波に乗り、ファミリー業態や大型ストア、ライフスタイル業態まで次々とブランドを開発していった。しかし2007年3月期の営業利益213億円をピークに、2015年3月期の営業利益は52億円まで下落した。

ファストファッションの台頭による衣料品の低価格化や、SC間での競争の激化、円安の影響で仕入コスト増が重なり、価格競争では対抗できなくなったことが原因だとされている。

「かつては、“出せば売れる”時代だった。しかし、リーマンショック以降、急激なSCへの大量出店による出店でコストが増加し、不採算店舗も出現するようになった。利益が出ていないのに、赤字で運営していた店もあった」(アパレル関係者)

ワールドは今回の見直しによって、事業の選択と集中に努め、2017年3月期に連結営業利益100億円を目指す方針だ。今後は投資が少なくて済むインターネット販売に注力するが、実店舗で味わった苦い経験を活かせるかどうかが、明暗を分けることになるだろう。

大手アパレル2社に共通する、苦境の本質的な原因とは

だが、このようなアパレルメーカーが不調である本質的な原因は、実は別のところにある。メーカーの“独自性のある”製品開発力が弱体化してきているのだ。

ここ最近では、洋服に対する消費者の考えが変わってきた。2014年11月に矢野経済が発表した内容によると、景況感の改善から"安くて、程よくいいもの"から、"ちょっと高くても、もっといいもの"を求める消費動向へのシフトがより明確に顕在化しているという。

以前は流行の洋服を安価でたくさん持ちたいというニーズもあったが、“断捨離”が象徴する片付け本や、エコ思想の流行で、“本当に必要な枚数のみで必要以上は持たない”考えがスマートで美しいと指示する声が増えてきている。

『フランス人は10着しか服を持たない』(ジェニファー・L・スコット著)が、昨年10月発売以降売上63万部を突破し、今年の上半期ベストセラー総合第一位の座に輝いたことも、それを象徴しているだろう。

今年1月に日本撤退した『トップショップ(TOPSHOP)』に見られるように、いまやファストファッションブランドも岐路に立たされている。消費者は以前のように、流行の洋服を安価でたくさん欲しいという安易な考えを捨て、“私だけに似合う、気分が上がる、とっておきの一枚”を求めている。しかしどのブランドも売れ筋の流行のものしか作らず、ショッピングセンター内どのブランドを見ても似たようなデザインの洋服ばかりだ。

「売れている生地に、売れているデザインをのせ、ブランドネームを変えるだけの類似商品をいかに早く安く投入するか。ブランドは違えども、手法は同じくして展開することでコストダウンを図る。“売れている商品を売れているうちに、早く安くたくさん作り、投入できればそれでよい。”そんな考えがアパレル業界に蔓延して、今回のワールドやTSIの事態を引き起こしたのではないか」(前述のアパレル関係者)

今必要なのは、アパレルビジネスを変える新概念

在庫の概念も変化している。自社では在庫を持たず、企業の過剰在庫解消の受け皿として売上を伸ばしている、『ギルト(GILT)』、『グラムールセールス(GLAMOUR-SALES)』、『ミレポルテ(MILLEPORTE)』を代表とする“フラッシュセールサイト”では、会員数が200万人を突破するサイトも出てきた。

2015年から、『リシェ(Licie)』、『エアークローゼット(airCloset)』に見られるような、日常着の月額制レンタルサービスサイトも新たに始まり、今後は在庫を抱えないWEBサービスといった新概念のアパレルビジネスも増えていくことが予想される。

国内の景気は緩やかな回復基調で推移しているとはいえ、個人消費に本格的な回復の動きがみられない中、消費税率の引き上げや円安による原材料などの輸入コスト増加の影響で価格転嫁も難しく、アパレル業界にとっては、依然として厳しい状況が続いている。

今までのアパレルビジネスを変える概念で、真剣に消費者に向き合う商品・サービスを提供しない限り、消費者の心は掴めない。2015年はアパレル各社にとって、大きな転換期になりそうだ。(ZUU online 編集部)