政策:割れる追加緩和観測

昨年10月末に追加緩和を実施して以降9ヵ月あまりが経過したが、日銀の金融政策は現状維持が続いている。この間に、日銀が政策目標とする物価上昇率は、原油価格下落の影響を受けて大きく鈍化し、日銀の掲げる2%の物価目標から遠のいているが、日銀は「物価の基調は改善」、「原油安の影響が一巡する秋以降に物価上昇率は上昇」との見解を盾に、追加緩和に動くそぶりを見せていない。

◆比較的早期の追加緩和観測は後退

こうした状況にあって、エコノミストや市場関係者の追加緩和に対する見通しも大きく割れている。

一例として、日本経済研究センターが民間エコノミストを対象に調査している「ESPフォーキャスト調査(2015年7月調査、回答期間6/25~7/2)」における「次回の金融政策変更の予測」を見ると、有効回答37社のうち、次回の政策変更は、いずれかの時点で「追加緩和」とした回答が20社である一方で、次回は「金融引き締め」(すなわち追加緩和なし)とした回答が17社であり、見解が殆ど真っ二つになっている。

同調査について、過去からの推移を見ると(表紙図表参照)、今年度に入った頃から、徐々に早期(年内)の追加緩和派が減少する一方で、引き締め派が増加してきた様子が鮮明に現れている(この間に来年以降の追加緩和派もやや増加している)。

日銀が4月に物価目標達成期限を「16年度前半頃」へと後ろ倒ししたうえ、物価が伸び悩む状況においても、強気のメッセージを発信し続けていることが影響していると考えられる。結果として、直近では「緩和あり派」と「なし派」がほぼ拮抗することとなった。

次回の金融政策変更の予測分布

日銀は2%の物価目標を安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」(以下、異次元緩和)を継続するとしており、2%の達成時期は「2016年度前半頃」としている。従って、本来は今後の物価見通しが金融政策見通しに大きな影響を与えるはずなのだが、「16年度前半に2%」が達成可能と見ている民間エコノミストはかなり少数派だ。

先ほどのESPフォーキャスト調査を見ても、16年度前半の物価上昇率は平均で1%強に留まり、日銀見通しである2%とは相当な距離がある。つまり、「16年度前半に物価上昇率2%達成」は困難との見方が大勢を占めていることになる。

◆緩和を巡る論点整理

それでは、日銀が掲げる「16年度前半に物価上昇率2%達成」が困難ということがほぼ共通認識となっている中で、何故追加緩和に対する見通しが分かれるのだろうか。

それは、期限内の物価目標達成が困難であることが明らかとなった時、もしくはその状況が見えてきた時の日銀の対応についての見方が分かれているためだ。そして、その背景には、いくつかの論点における見解の相違がある。

◇論点1 緩和の限界をどう見るか?

一つ目の論点は、現在の異次元緩和の継続性についての見解の相違だ。現在の日銀は長期国債を保有残高が年間80兆円増加するペースで買入れており、市中が既に保有している国債を大量に買い取っているわけだが、「金額が巨大すぎて、あまり続けられない」との見方がある。

この見方を支持するのであれば、物価目標達成が困難となっても、限界が近づいている異次元緩和をさらに拡大することは難しく、日銀は追加緩和に踏み切らない(踏み切れない)との意見になる。一方、「限界は遠い」とする場合、またはこれまでの主軸であった国債買入れ以外の追加緩和方法を採ると予想する場合は、「追加緩和有り」が選択肢に入ってくる。

◇論点2 追加緩和なしの物価目標変更は有り得るか?

二つ目の論点は、物価目標変更時の対応に関する見解の相違だ。

「16年度前半に物価上昇率2%達成」という日銀の物価目標が未達になる、またはそれが見えてきた場合、日銀は物価目標の達成時期をさらに後ろ倒しするか、柔軟化(「早期の達成を目指す」に変更など)せざるを得なくなる。ただし、今後も景気回復に伴って需給ギャップが改善すると見込まれるので、デフレに戻る可能性は低下している。

このような状況が想定される中で、「2%には達しないにせよ、デフレ懸念は後退しており、物価目標変更は許容される」と見るのであれば、「追加緩和なし」との見方になるのに対し、「日銀金融政策への信認低下リスクがある」と見るのであれば、もう一度その前に追加緩和を実施するか、目標変更とセットで追加緩和に踏み切るとの見方になるだろう。

◇論点3 日銀はこれ以上の円安を望んでいないのか?

三つ目の論点は、「日銀がこれ以上の円安を望んでいない」と見るかどうかの見解の相違だ。

最近も円安による輸入コスト増加を商品価格に転嫁する動きが続いており、物価の上昇圧力になっている。そのこと自体は物価目標達成の追い風となるが、一方で家計にとっては実質賃金押し下げに作用するため、消費の重石となるリスクを含有している。政府の円安に対する姿勢も歓迎一辺倒ではなくなっており、日銀も配慮せざるを得ないとの見方もある。

消費者物価上昇率の推移

この見方を支持するのであれば、「さらなる大幅な円安をもたらしかねない追加緩和はない」との見方になる一方、「物価目標のためには、円安基調は必要」と見るのであれば、追加緩和の可能性を排除しないとの見方になる。