◆筆者の見通し

このように、今後の金融政策を巡る論点は複数存在しており、それぞれをどう見るかによって、追加緩和「あり」と見るか、「なし」と見るかに分かれる。ちなみに、筆者は以下の理由により、「追加緩和あり」だと考えている。

・大規模緩和の継続性は確かに気になるが、差し迫ってはいないと見られるほか、国債買入れ増額以外の追加緩和手段も残されている(1)。

・「16年度前半に物価上昇率2%達成」が困難なことが見えてきた時に、今年の4月に続いて、単に物価目標だけを大きく変更してしまうと、日銀の物価目標達成に対する本気度が疑われ、インフレ期待が後退するリスクがある。従って、物価目標変更の前にもう一度動くか、同時に動く可能性が高い。

・円安には確かにデメリットもあるが、もともとハードルが高い物価目標を達成するためには円安基調である方が望ましいうえ、政権が歓迎する株高をもたらす効果もあるため、さらなる円安を避けるために追加緩和を行わないという見方には同調できない。問題は円安のペースにある。

そして、追加緩和の時期は来年1月が濃厚と見ている。日銀の追加緩和余地は小さくなってきているため、出来る限り温存するが、「秋からの物価上昇加速」が日銀の想定を下回ることが冬に事実として判明し、それを確認した後に追加緩和に踏み切るというシナリオだ。

今年末以降は米利上げ(12月と予想)に伴って、金融市場が不安定化するリスクもあるため、その場合には市場への対応という意味合いも帯びる。

追加緩和の手段としては、国債買入れの大幅な増額は難しい。市中の国債保有量に限界がある中で増額をすると、国債買入れの継続可能期間を縮めてしまうためだ。従って、ETFの買入れと日銀当座預金への付利(現行は0.1%)の引き下げ、買入れ対象の拡大を予想している。

付利の引き下げによって、現在の直接の政策目標であるマネタリーベースの積み上げが進まなくなるのであれば、マネタリーベース目標自体を止め、単なる各資産の買入れ額目標に置き換えることも可能と考える。

◆2つのリスクシナリオ

上記がメインシナリオとなるが、最近では、それより前に追加緩和に踏み切ることになりかねないリスクも目立ってきた。一つは原油安だ。最近は再び原油価格の下落が進んでおり、それにともなって債券市場の織り込む期待インフレ率であるブレーク・イーブン・インフレ率にも下振れの傾向が見える。

今後、さらなる原油価格下落などから、この傾向がより顕著となり、企業や家計のインフレ期待にも下振れの兆候が出てくる場合は、「デフレマインドの復活を防ぐ」意味合いで早期の追加緩和に踏み切る可能性がある。

そして、もう一つのリスクが景気だ。最近では輸出の減速が目立っているうえ、消費も弱含んでおり、4-6月期の実質成長率はマイナス化する可能性が高い。日銀は既に4-6月の落ち込みを「一時的なもの」として織り込んでいるが、7月以降も回復が見られない場合には、追加緩和へ向かう可能性がある。

ブレーク・イーブン・インフレ率と原油価格