日銀金融政策(7月):悪いことは「一時的」、回復シナリオ維持
◆(日銀)現状維持
日銀は7月14~15日にかけて開催した金融政策決定会合において、現行の金融政策を維持した(賛成8反対1)。引き続きマネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するよう、長期国債・ETF等の資産買入れを継続する。
なお、議案に反対した木内委員はこれまで同様、マネタリーベースならびに長期国債が45兆円ペースで増加するよう資産買入れを行うべきと主張したが、反対多数で否決された。
声明文における景気判断は、「緩やかな回復を続けている」と、前回の表現を据え置いた。個別の需要項目についても前回から大きな変更はなかったが、輸出と生産について、「振れを伴いつつも、持ち直している」と、それぞれ前回の「持ち直している」に「振れを伴いつつも」という表現を加えている。近頃の弱含みを「振れ」と認識することで、トレンドとしての持ち直しという判断を維持している。
また、景気と物価の先行きについても、それぞれ「緩やかな回復を続けていく」、「当面0%程度で推移する」とし、前回からの変更は無かった。
なお、同日に公表された展望レポートの中間見直しでは、前回の4月から、15年度の実質成長率を0.3%ポイント下方修正。消費者物価(生鮮食品除く)については、15~17年度の各年度の上昇率をそれぞれ0.1%ずつ小幅に下方修正している。
会合後の黒田総裁会見では、最近の輸出と生産の鈍化について「一時的なものと考えている」とし、今後は海外経済の回復などから、ともに「振れを伴いつつも、緩やかに増加していく」との見通しを示すとともに、「日本経済の4~6月の若干弱い状況が、7~9月以降ずっと続くとは全くみていない」と述べた。
懸念が高まっている中国経済の動向に関しても、「注意深くみていきたい」としつつも、「総じて安定した成長を維持している」、「(先行きについても)成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路を辿る」と楽観的とも言える見方を示している。
展望レポートにおける16年度の物価上昇率が0.1%下方修正され、2%を切ったことに関しては、「2%程度という時には、1.9%も2%程度に入る」と説明。従来同様、原油安の影響が剥落するにつれて、物価上昇率が高まり、16年度前半頃に2%程度を達成する可能性が高いとの見通しを繰り返した。
また、足元で進んでいる原油安に関して、原油価格と政策変更の関連性を問われた場面では、「それが非常に大きな変化で、物価上昇率とか物価上昇期待に大きな影響を与えて、物価の基調に変化をきたすということになれば、当然、必要に応じて政策を調整することになる」としつつも、「現時点で政策を変えるつもりはない」と、早期の追加緩和期待に対して釘を刺した。
ちなみに、出口戦略については、これまで同様「具体的に議論するのは時期尚早」と述べるに留めている。足元の内外景気には鈍化の傾向がみられるが、これまで同様強気のスタンスが維持されており、物価上昇への自信にも変化がみられない。
その後、8月6~7日にかけて開催された金融政策決定会合においても、現行の金融政策が維持された(賛成8反対1)。声明文における景気判断も総じて7月と同様であったが、住宅投資の評価を「持ち直している」と前回の「持ち直しつつある」から上方修正した。景気・物価の先行きに関する表現も7月から変化はなかった。
なお、7日には同時に来年の金融政策決定会合日程が公表された。先般発表されているとおり、来年から会合の回数が8回(現行は14回)となる。日銀の会合は既に公表されているFRBの会合(FOMC)日程と極めて近い日に設定されており、総裁は会見で否定したが、FOMCを意識した設定であることが推測される。
さらに、どちらかと言えばFOMCの直後に設定されている月が多いことから、来年に利上げを続けるとみられる米金融政策を受けて、柔軟に対応しやすい日程と言える。
政策金利(2)の先行きに対する市場の見方を示すOIS(一定期間の無担保コール翌日物と固定金利を交換する金利スワップ)の7月末時点における利回り曲線を見ると、日本とユーロ圏については前月末から殆ど変化がない。利回り曲線もほぼフラットの形状を維持しており、少なくとも2年以内の利上げは織り込まれていない。
一方、米国の利回り曲線は今回明確に上方シフトしている。特に2ヵ月以上のゾーンが全般的に前月から上振れており、9月の利上げの可能性を織り込む形となっている。この動きは7月16日から発生しており、15日から16日にかけて行われたイエレン議長による議会証言の内容が思ったほどハト派的ではなかったことが影響した可能性が高い。