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「クラブハウス渋谷」の向かいには「アディダス パフォーマンスセンター渋谷」がある

筋肉を圧迫する外骨格のような「甲冑下着」

アンダーアーマーが受けた理由の1つは機能面での差別化だ。

ケビン・プランクが開発したスポーツウェアは高い機動性と通気性を実現している。それ以前のウェアのシルエットはゆったり、リラックスしたものだった。

そこでプランクは「セカンドスキン」という理論をもとに、従来の概念とは反対である“密着”するウェアでありながら、通気性と機動性のあるウェアを開発した。ウェアが筋肉を圧迫する外骨格のような役割を果たすことで、より高いパフォーマンスを発揮できるという。このコンセプトこそ、ブランド名の「アンダーアーマー(甲冑下着)」の由来だ。

身体に密着する「コンプレッションウェア」に対してファッション面での抵抗が最初からなかったわけではない。しかしプロのアスリート達がいったんその優れた機能を受け入れると、次第に不評は少なくなり、むしろ新しいファッションとしても支持され始めた。
アンダーアーマー社の戦略は、厳しい過当競争のなか、大手有名メーカーの寡占状態にある市場(レッドオーシャン)を捨て、少し視点を変えることでてほとんど無風状態の市場をめざした、「ブルーオーシャン戦略」の典型といえる。

まったく新しいコンセプトの商品を生み出したことで、敵のいないところで戦えるようになったが、ただそれだけでは広く支持されるとは限らない。もう1つ、アンダーアーマー成長を支えたのは、コンセプトや考え方を簡潔なキーワードでブレることなく継続的に訴求し続けたマーケティング戦略にある。

表彰を受けたマーケティングキャンペーン戦略

2014年、アンダーアーマーは米アドエージ誌の「マーケター・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。これは男性向けだった「I Will」キャンペーンに対し、新たに女性をターゲットにした「I Will What I Want」(私の意思のままに)キャンペーンが成功したためだ。

アンダーアーマーは以前、キャンペーンを年間を通じて行っていた。しかし年3回の大型休暇に照準をあわせて映像を登場させるなどして効率化をはかった。

また13年夏から始まった女性向けキャンペーンでは、アフリカ系アメリカ人として初めて、アメリカンバレエシアターのプリンシパル(首席)ダンサーに選ばれたミスティ・コープランドや、スーパーモデルのジゼル・ブンチェンらが登場。コープランドの映像では、彼女が筋肉質で美しい身体がしなやかな跳躍を見せ、そこに「バレリーナにふさわしくない体型が理由でバレエ学校を不合格になった」という自己紹介が流れる。身体、精神の強さを持ち、我が道を行く女性を称えるもので、まさにキャンペーンテーマに合致した、映像としての強さとメッセージ性を持った内容だ。

ある投資会社は2014年12月のレポートで、同社の年間売上高が5年以内に100億ドル(1.2兆円)を超えるとの予測をたてている。
東京・渋谷のクラブハウスの道路をはさんで反対側にあるのは、「アディダス パフォーマンスセンター渋谷」。業界2位のアディダスがおよそ1.8兆円。2強時代から3強時代へと変わるのか、さらに驚くような地殻変動が起こるのか。競争はさらに熾烈になるはずで、ライバル各社の対抗策も見逃せなくなる。(ZUU online 編集部)