9月14、15日の日銀金融政策決定会合は政策の現状維持となった。「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させる現行のコミットメントを続ける。

日銀のコミットメントに反し、消費税率引き上げ後の需要停滞と原油価格の下落などにより、消費者物価指数の伸びが止まってしまっている。一時的にマイナスまで落ち込む可能性が高くなっている。アベノミクスの政策は、期待に働きかけて、企業活動を押し上げ、その力を使ってデフレ完全脱却に向かう枠組みである。景気の気(センチメント)の部分が、政策などに支えれて堅調なことが、デフレ完全脱却への動きの原動力となっている。

一方、輸出・生産・成長率などの実体経済や物価の動きは、この気の動きに比べてかなり弱い。実体経済や物価の動きが弱いにもかかわらず、日銀が追加金融緩和に動かず、目標達成までの果断な政策コミットメントが疑われてしまうと、マーケットの失望などにより景気の気の部分が悪化し、デフレ完全脱却への動きの原動力が失われてしまうリスクとなろう。実体経済と物価が強くなるまで、辛抱強く気の部分を政策で支え続ける必要がある。


景気刺激策や追加金融緩和を果断に実行すべき

昨年4月の消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮や中国経済をはじめとした外部環境の不透明感など、デフレ完全脱却に向けた残り1マイルの道はぬかるんでいるようだ。アベノミクスの政策は、期待に働きかけて、企業活動を押し上げ、その力を使ってデフレ完全脱却に向かう枠組みであり、景気の「改善テンポにばらつき」(政府月例経済報告)が見られ、生産動向の「一進一退」(経済産業省)が続くのであれば、追加的な政策対応の十分な根拠となりうる。9月の日銀金融経済月報では、景況判断が「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている」とされ、8月の「緩やかな回復を続けている」から警戒感が引き上げられた。生産についても、「持ち直している」から「横ばい圏内の動き」に下方修正された。

それほど追加的なコストが大きくないにもかかわらず、最後の政策の一押しを怠ってぬかるみに足をとられ、デフレ完全脱却を失敗し続けた歴史があることを、政府・日銀はしっかり意識し、財政による景気刺激策や追加金融緩和を果断に実行し続ける必要があるだろう。政府は、来年夏の参議院選挙までにはデフレ完全脱却を宣言し、その成果を国民にアピールすることで勝利したいと考えるだろう。デフレ完全脱却の実感につながる株式市場の更なる上昇、そして低下気味である内閣支持率回復のためにも、日銀の追加金融緩和を望むようになるだろう。

日銀がシナリオに既に織り込んでいると主張していたとしても、実際に成長率や物価上昇率の停滞が続けば、金融政策をめぐる状況が変化してくる可能性が高い。日銀が重視する期待インフレ率が低下するリスクが大きくなるからだ。昨年10月に日銀がマーケットの予想に反して追加金融緩和に踏みきった理由を、「原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある」としていた。原油価格は弱含み、マーケットの期待インフレ率も既に弱含んでいる。

4月の展望レポートでも、「現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある」と指摘しており、同じよう状況に陥り、同じロジックによる金融緩和期待がマーケットで高まれば、日銀が追加金融緩和に踏み切る可能性があることが示唆されている。


10月末の展望レポートで物価見通しが下方修正される

4月以降の賃金上昇の影響が強くなり、原油価格下落の影響が剥落していく7-9月期以降は、物価上昇率や実質GDP成長率も持ち直すとみられ、10月1日に公表になる9月の短観の結果を含め、日銀は辛抱強くそれを確認しようとするだろう。しかし、物価上昇率は着実に持ち直していくと考えられるが、日銀が予想しているペースに物価上昇率が加速するほど景気・マーケット環境は強くない。

10月には、「2%の物価安定の目標」を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」には景気回復と物価上昇のペースが弱すぎることを確認し、追加金融緩和が実施されると考える。昨年も、消費税率引き上げ後の4-6月期のマイナス成長の後、7-9月期の大きなリバウンドの期待が外れたことが、10月の追加金融緩和につながった。今回も、4-6月期のマイナス成長の後、海外の景気回復のもたつきをみると、7-9月期のデータで、物価上昇の加速を強くするほどの景気のリバウンドは期待できず、状況は似ている。短観の企業の期待インフレ率も、9月調査で大きめの低下が確認されるだろう。

10月30日に公表される展望レポートで日銀の物価見通しが大きく下方修正されることが、追加金融緩和の判断に直結するだろう。2016年度の物価上昇率の予想は+1.9%程度から大きく下方修正され、早期の2%の到達が困難であることを正式に表明するだろう。そして、目標の達成時期を「2016年度前半頃」から、2017年度の前半も視野に入れた「2016年度を中心とする期間」へ正式に後ずれさせ、その実現をより確かにするための追加金融緩和という位置づけを明確にするだろう。

マネタリーベースを「年間約80兆円」から「年間約85兆円」へ増加させ、その増加分の過半はETFを含めたリスク資産の買い入れでなされ、量より質の面の緩和を強調するだろう。来年夏の参議院選挙までに政府がデフレ完全脱却宣言をするとみられるので、それが今回の局面での最後の金融緩和となるだろう。しかし、2%の物価上昇の到達にはまだかなり時間がかかるため、日銀の早期の金融引き締めはないだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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