財政再建はスピードを出せば勝手にすすむ

――それにしても、その間違いになぜ気づかなかったのでしょうか?なにしろ20年ですからね。

この国のエリート層は頭が良すぎて、二兎を追い続けてしまったんでしょうね(苦笑)。財政再建というものは、子供が初めて自転車に乗るときの練習にたとえることができます。転ぶのを恐れているから、自転車を走らせることができないのですよ。思い切ってスピードをつければ自転車は真っ直ぐに走るものです。そのことに開眼すれば、どこへでも走って行けるようになります。

結局、財政赤字を恐れてばかりいるから、スピードを乗せることができずに、いつまでたっても財政再建ができないんですよね。自転車のように思い切ってスピードを乗せて3%、4%成長で3年でも4年でも走り続ければ、税収もテキメンに増やすことができて、勝手に財政再建も果たせるでしょう。

とにかく日本経済の成長率を高められなかったこと。公債残高累増に怯えすぎ、スピードを出せなかったことが最大の失敗と考えます。本当は自転車の練習と同じで、「行け!」って背中を蹴飛ばしてやればいいんですよ。勇気と雄々しさが足りなかった。「借金は悪」と思い込みすぎた。政府は国債もお札も刷り放題の特権階級で堂々「身代わり地蔵」になるべきなのに、一般家計並みに考えるなんて愚の骨頂。


現在の価格破壊は「安物買いの銭失い」

――自転車の話でたとえるなら、1980年代はまさにスピードを乗せて駆け抜けた 時代でしたね。文字通り「行け!行け!」の時代でした。最後はスピードを乗せすぎてクラッシュしましたが、それがトラウマになっているでしょうか。

80年代っていうのは、世界経済でも日本の一人勝ちで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた時代でした。日本の中成長時期で、最終的にはバブルに踊ったわけですが。結局、あの時代は何だったかっていうと、税金がものすごく高かったんですよ。物価も高く、ビールも全銘柄同じ値段だし、クルマだってモータリゼーションで値段は高いけれどものすごく売れたわけですよね。大学生が当たり前に「インテグラ」「プレリュード」に乗ってましたね。

つまり、みんなが稼いで税金も高かったけど、みんなが使う。価格破壊なんて言葉もない時代でしたから。だから、たくさん稼ぐけど、たくさん税金も払い、たくさん使う。「使う」が「雇用」を作り、「消費」に回り、結局「収入」が増えて辻褄が合う好循環。家電製品は全部国産、クルマも全部国産だし、衣類でもまだ国産の方が多く、外国産は一部にすぎませんでした。日本が「世界の工場」でした。

だから、国内産で物価は高く、税金も高いけれども、納得づくで使うから、国内の金回りはすこぶる良かったわけです。それに比べて現在は15年デフレで、価格破壊が加速して、身の回りの物のほとんどが海外産品です。海外産品を買っても、その売上の大部分は海外に流れるだけです。ユニクロやニトリで買い物をしても、販売員の雇用くらいで、生産要員の雇用は海外に流れてしまうわけですよね。結果として、国全体として貧しくなってきた。言い換えれば安物買いの銭失いみたいなもので、国内の雇用も海外に奪われてしまいました。

地方はというと、たとえば家電製品を組み立てる工場の多くは海外に移転してしまい、雇用の場を失いました。その雇用がいわゆる家電量販店やスーパー、介護業に吸収されて、年収がガクンと落ちたわけですよね。その雇用形態も、正規から非正規へどんどんシフトしました。雇用形態が激変し、所得がどんどん下がって、GDPもシュリンクしています。まさに縮小均衡型の経済を20年間続けてきた、それが「失われた20年」です。