◆道路インフラ利用の経済損失-年間1人当たり渋滞で960ドル、路面悪化で518ドルのコストが発生

米国では、渋滞や路面状態の悪さが引き起こす経済損失について様々な試算がされている。

渋滞に関する損失は、主に時間の損失と燃料コストの増加で測られている。公的機関であるテキサスA&M交通研究所の試算(*2)によれば、都市部の渋滞に伴い、最も深刻なワシントンDCでは運転手1人当たり年間で82時間が追加的に浪費されており、燃料消費も35ガロン余分にかかる結果、遅延時間と燃料浪費を合わせた経済コストは毎年1,834ドルに上るとしている。全米平均でみても経済コストは960ドルに上っている(図表5)。

米国道路インフラ 図5

これは、米国全体では1,600億ドルの損失となり、名目GDPのおよそ1%に相当する水準である。さらに、00年以降の推移をみると経済損失の額は増加していることが分かる。

また、時間や燃料以外でも、渋滞によって物流の配達遅延が発生する場合には、製造業などで行われるジャスト・インタイムの運営が困難になるため、在庫を余分に持つことで生産性が低下することも指摘されている。一方、米運輸省によれば(*3)、渋滞の要因として道路のキャパシティーが不十分であることが4割を占めており、交通事故(25%)、悪天候(15%)を大幅に上回っているとしている。

実際、当該期間における道路の総延長と走行距離の伸びをみると、金融危機後には経済が停滞したこともあり、走行距離は07年をピークに増加スピードが抑えられているものの、道路の総延長の伸びが追いついていけていないことが分かる(図表6)。

米国道路インフラ 図6

次に路面状況の劣化に伴う試算では、自動車の修理代が増加することが示されている。陸上交通に関する調査分析を行うNPO組織のTRIPによる試算(*4)では、平均的な運転手一人当たりの追加的な修理代は年間516ドルに上るとしている。

これまで国内での経済損失をみたが、これらの悪化は、海外との比較でも競争力の低下として問題視されている。世界経済フォーラムは毎年国際競争力ランキングを発表しているが、交通以外も含めた米国のインフラランキングは直近調査(15-16年)が140ヵ国中、11位となっている(図表7)。世界1位である経済規模に比べて競争力は高いとは言えない。また、現在の方式となった06-07年まで遡ると米国の順位は7位であったため、順位が悪化していることが分かる(図表8)。

米国道路インフラ 図7-8

さらに、インフラの中でも道路の質に関する順位とスコアをみると、直近の順位は14位に留まっており、インフラ全体に比べて悪くなっている。さらに、スコアは08-09年をピークに低下しており、10-11年以降には、ほとんど改善がみられない。順位こそ12-13年から小幅に改善しているものの、これは米国の質改善を示している訳ではなく、他国の悪化によるものとみられる。