日銀金融政策(10月):物価目標期限を後ろ倒し、追加緩和は見送り
◆(日銀)現状維持
日銀は10月6~7日に開催した金融政策決定会合において、現行の金融政策を維持した(賛成8反対1)。引き続きマネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するよう、長期国債・ETF等の資産買入れを継続する。なお、議案に反対した木内委員はこれまで同様、マネタリーベースならびに長期国債が45兆円ペースで増加するよう資産買入れを行うべきと主張したが、反対多数で否決された。
声明文における景気の総括判断は、「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている」と、前回の判断を据え置いた。個別項目も変更無し。景気と物価の先行きについても、それぞれ「緩やかな回復を続けていく」、「当面0%程度で推移する」とし、変更は無かった。
その後、10月30日に開催した金融政策決定会合でも、日銀は現行の金融政策を維持した(賛成8反対1)。会合後に公表された展望レポートでは、景気の総括判断こそ前月から据え置いたものの、15・16年度の成長率を前回(7月)から下方修正、コアCPI上昇率も大幅に引き下げられた(17年度分はほぼ据え置き)。これに伴って、物価安定目標の達成時期も従来の「16年度前半頃」から、「16年度後半頃」へと後ろ倒しされた。
さらに、今回から公表開始となった政策委員のリスク評価によれば、コアCPI上昇率は各年度ともに上振れリスクよりも下振れリスクの方が大きいとの見方となっており、しかも年々「下振れリスクが大きい」とする政策委員の人数が増加している。
今回の展望レポートの下方修正は、予想していたよりも大幅であったが、それでも下振れリスクが大きいとの見方が示された形だ。その後の黒田総裁会見では、物価目標達成時期の後ろ倒しについて、「主としてエネルギー価格の下振れによるもの」であり、「物価の基調は着実に改善しており、原油価格下落の影響が剥落するに伴って2%を実現していく」との見通しを示した。
4月に続く目標の後ろ倒しが日銀に対する信認に与える影響を問われた場面でも、「物価の基調は確実に改善してきている」、「量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮している」として、信認の低下を否定した。
事前に一部期待が高まっていた中で見送った追加緩和に関しては、具体的な追加緩和の提案はなかったことを明らかにしたが、「必要があれば躊躇なく追加緩和であれ何であれ、金融政策の調整を行う用意がある」と従来のスタンスを表明するとともに、「その手段について限界があるとは全く思っていない」と述べ、将来の追加緩和の可能性に含みを残すことも忘れなかった。金融市場における追加緩和期待を一気に消滅させないための配慮と考えられる。
ちなみに、今回の総裁会見で最も印象的であったのが、「経済全体のバランス」への言及だ。
具体的には、「物価だけ上がればよいのではなく、賃金も上がっていく、企業収益も増えていく、経済全体がバランスのとれた形で目標を達成するのでなければ、持続的・安定的に達成することは非常に難しい」という発言だ。同様の主旨の発言が複数回繰り返された。
さらに賃金については、今後上がっていくとの見通しは示しつつも、「労働市場が極めてタイトな割には、あるいは企業収益が史上空前のレベルにある割には、賃金が上昇していないことも事実」と伸び悩みを認めている。
賃金の伸びが限定的な中で物価が上昇し、結果として家計の消費行動に悪影響が出る事態に対して、日銀は警戒を強めているようだ。今後の金融政策を考えるうえでは、今回の追加緩和見送りを正当化する最大の理論武装となった日銀が言うところの「物価の基調」の動向に加え、賃上げがカギになりそうだ。