10月の消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.1%と3ヶ月連続(9月同-0.1%)の下落となった。確かに、これまでの円安によるコストプッシュの価格転嫁の進展が、物価の押し上げに働いている。しかし、昨年後半から年初までの原油価格の急落の影響が前年同月比で強く残っており、2%の物価上昇の日銀のコミットメントに反し、コアCPI前年同月比は下落している。

7月以降、原油価格は再び下落してしまい、その後のリバウンドも弱い。4-6月期の実質GDPのマイナス成長の大きな原因となったのが消費の弱さであった。昨年4月の消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮がまだ残ってい中で、食料品を中心とした値上げが続き、消費者が防衛的になってしまっているようだ。2017年4月に再度の消費税率の引き上げがあることも、消費者心理を抑制している可能性もある。今後の更なる値上げが需要を大きく減少させるリスクを企業は感じ始め、値上げに慎重になっていくだろう。そして、新興国経済の弱さなどにより、被服と食料を中心とした値上げが鈍くなる可能性もある。

労働需給逼迫による賃金上昇の影響が強くなり、原油価格の下落の影響が剥落していく1-3月期以降は持ち直すとみられる。しかし、2016年末までに+1%程度まで戻るのが精一杯であり、物価上昇のモメンタムは日銀が想定するよりかなり弱いとみられる。需要拡大がついてこなければ、コストプッシュのみによる物価上昇は継続しないだろう。

2016年は、物価上昇が賃金上昇に若干遅れることによる実質賃金の上昇が消費活動を刺激するという、2014・5年とは逆の展開になっていくと考えられる。11月25日の記者会見で、白井日銀審議委員は「物価上昇と賃金上昇は必ずしも同時進行にならない」と指摘している。

物価上昇がより強い時には実質賃金減少により消費は弱くなり、逆の場合は消費は強くなる。もちろん、数年でならしてみれば、物価上昇と賃金上昇はトレンドとして似てくると考えられる。

そのトレンドがしっかり確認できるためには、自然失業率とみられる3.5%を下回った失業率が、更に3%を下回る水準に低下し、労働需給の引き締まりが賃金上昇を強くし、消費活動の拡大が牽引する形で物価上昇が加速していくかどうかを確認する必要がある。2016年にはその萌芽がみられると考えるが、日銀の目標である2%の安定的な物価上昇の「2016年度後半」の達成は困難であると考える。

10月の失業率は3.1%(9月3.4%)と、引き続き自然失業率を下回り、更なる低下が見られた。ただ、10月の失業率の大幅な低下の結果は、9月のシルバーウィーク後に労働市場から退出してしまった労働者が大きく増加したのが理由であり、失業率は持続的に低下のトレンドにあるとはいえ、3.1%の結果はできすぎである。

10月の有効求人倍率は1.24倍(9月の1.24倍)と、1992年以来の高水準となっている。11月の東京都区部消費者物価指数(除く生鮮食品)は0.0%(10月同-0.2%)と、5ヶ月ぶりに下落を回避した。しかし、前年同月比はゼロ%近辺での推移からしばらくは脱することができず、物価上昇の加速はしばらく感じられないだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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