pixta_12516521_L (1) (写真=PIXTA)

年の瀬が近いこの時期、クリスマスやお正月とは無縁の子供達がいる———受験生だ。読者の中にもその昔、経験した人が多いことだろう。今回の話題は、その受験生をはじめ、勉強に勤しむ子供達を抱える親にとって、悩ましい「教育費」の話だ。相続税の基礎控除の減額が既に始まり、祖父母世代が節税対策に余念がないなか、子供の教育費に不安を抱く親世代には、うれしい制度。それが「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置(以下、教育資金非課税制度)」である。

教育資金非課税制度とはどういうものか?

教育資金非課税制度とは、平成25年度の税制改正により成立した法案のひとつで、「平成27年12月31日まで(27年度税制改正により平成31年3月31日まで延長)に、30歳以下の直系卑属(子や、孫)への贈与が、教育資金の支出のためのものであれば、一定の要件の元、受贈者(受け取る側)は1,500万円まで贈与税を非課税にする」というもの。

この制度が作られた背景を知るには、日本の教育現場の現状と、当制度の要望の出所を知る必要がある。

まず今日の日本の教育にまつわる「お金」であるが、文部科学省のホームページによると子供が幼稚園から大学までの期間、教育機関等に支払う費用は、全て国公立でも子供1人につき約1,000万円、仮に全て私立だと2,300万円にも上るとされている。さらに興味深いのは、「進学した学校により、卒業後の就業状態や、生涯所得に影響を与える」(同HPより抜粋)という点だ。

中高年世帯が負担する教育費は所得の2割に上る

教育資金非課税制度の要望の出所のひとつは、上記の文部科学省である。

その意義について要約すると、お金をかけて良い教育環境の下で育てれば、生涯所得が上がり、加えてグローバルな人材育成にも寄与する、と指摘している(文部科学省 学生への経済的支援の在り方に関する検討会 第12回(6/16)参考資料2)。更に世帯間の資産移転と流動的な資産の活用により、産業界においても恩恵を預かれるのではないか、との見立てである。

よい教育に必ずしもお金がかかるとは限らないし、読者のなかにも当然賛否両論があるように思う。教育に関する考え方は人それぞれだろう。しかし、高等教育のため必要に迫られて捻出する教育費は、中高年の世帯所得の2割にも上るといわれているのが実状である。そう考えると教育資金非課税制度の意義は大きいといえる。

信託財産設定額の合計は半年で2,607億円に

もうひとつの要望の出所は、一般社団法人の信託協会である。当制度を活用するには、信託銀行、信託会社、銀行などに受贈者名義の口座を、いずれかの金融機関で一人一口座開設しなければならない。

信託を活用しての贈与になるので、当然のことながら信託報酬手数料の恩恵にあずかるのは同協会の会員(信託会社など)であるが、そのなかには手数料を無料化にした金融機関も見受けられ、利用者には朗報といえる。ちなみに、信託協会のホームページによると、平成27年4月に施行されてから半年での利用状況は、教育資金贈与信託の契約数は4万162件、信託財産設定額合計は2,607億円に達する。

教育資金非課税制度を利用するには、日頃から利用している銀行や信託銀行に相談することで対応してもらえる。まず手順としては、子や孫の名義での口座を開設し、そこで信託契約を結び、口座に入金する。次に「教育資金非課税申告書」を金融機関に提出し、金融機関が税務署へ提出する仕組みだ。

どのようなものが「教育資金」として認められるか?

教育資金非課税制度は通常の贈与と違い、信託契約を結んでいるため「教育費」以外に使われることがなく、贈る側は安心でき、受け取る側が誤った使い道に走る心配もない。それだけに、もっと広く社会に普及してほしいものである。

ところで、教育資金非課税制度の対象となる「教育資金」とは、具体的にどのようなものだろうか。一番多いのは、大学や専門学校など、教育機関に直接支払われるものである。たとえば、通常の授業料はもちろんのこと、入学費や保育料、修学旅行費や給食費も含まれる。その他学習塾や、お稽古ごとに必要な費用も対象として認められている。さらに改正で、通学定期代や、留学の渡航費用なども含まれるようになった。

ただし、上限1,500万円までの資金は、受贈者が30歳になるまでに使い切らなければ、そのときの残高に贈与税がかかるので注意が必要である。

また、仮に贈与者が死亡した場合、この口座に入金された資金(上限1,500万円まで)は、相続税の課税価格には加算されない。もちろん、死亡前3年以内の贈与加算にも含まれない。一方、受贈者が死亡した場合は、30歳前でも口座は終了となり、課税はされない。

ともあれ、上手に制度を利用すれば、世代間の資金移転には大きな役割を果たす「教育資金非課税制度」。安心してのびのびとした教育環境を作るきっかけと、それを見守る親世代の心の余裕にも、大いに期待したい。