求められるのは日銀の追加金融緩和ではなく財政政策

マネタイズすべきものが大きければ大きいほど量的金融緩和の効果も大きくなるが、2000年代のようにネットの国内資金需要が消滅していれば、量的金融緩和の効果は限定的になってしまう。昨年4月の拙速な消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮や中国経済をはじめとした外部環境の不透明感が高まってきていた。外部環境が不透明な中で、交易条件の大幅な改善によるキャッシュの増加を、企業が投資などに使いきれず、企業貯蓄率はリバウンドしてしまった。更に、緊縮効果が出るほど、財政収支が改善してしまっている。結果として、ネットの国内資金需要は一時的に大きく縮小してしまい、量的金融緩和の効果が生まれる形が弱くなってしまっている。現在、量的金融緩和の効果を強くするのは、日銀の追加金融緩和ではなく、財政政策によるネットの国内資金需要の拡大であると考えられる。

アベノミクスは、企業を刺激して、企業活動の回復の力を利用してデフレ完全脱却を目指すものであるので、マイナスであった名目GDP成長率をプラスにして、企業が前を向いてリスクテイクができる経済環境を整えることが第一段階だ。復活したネットの国内資金需要をマネタイズする形の金融緩和の効果もあり、名目GDP成長率が長期金利をバブル期以来はじめて持続的に上回るようになっており、本格的なリフレ局面の入り口に来ている。2016年初の通常国会では、デフレ完全脱却への動きを促進する3.5兆円程度の補正予算が決定され、経済政策へのコミットメントを国民に示し、不安感を払拭しようとすることになる。額は少ないが、理論的には財政による景気刺激策、特に企業活動刺激策を出すことは正しい。

景気・マーケットが少しでも悪化すれば、日銀が機動的に金融緩和によって支えるという安心感が、実体経済より先行する期待、そしてそれを含む株価上昇を持続的にする。株価の上昇が強くなれば、マーケットの期待ROEが上がっていく。企業経営者が行動を変えなければ株価が下落してしまうので、企業経営者は実際のROEを期待ROEに近づける経営に徐々に転じ始めると考えられる。そして、内需低迷とデフレの長期化の原因となっていた企業のデレバレッジは止まり、貯蓄をより前向きな企業活動に使うことが、実体経済とマーケットの回復が強くなる好循環に結びついていく。このような好循環の動きを促進するためにも、日銀はETFの購入枠を若干だが増加させたとみられる。そして、日銀が買入れた銀行保有株式の売却開始の悪影響をオフセットする必要もあったのだろう。

内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIは4-6月期に+16と、前回のサイクルのピークである+12をとうとう明確に上に突き抜け、今回のサイクルが前回と比較しデフレ完全脱却へより強い動きとなっている。日銀の量的金融緩和の効果が強くなってきていることを示す証拠でもある。このDIの押し上げに寄与してきた「成長基盤強化支援資金供給」と「貸出増加支援資金供給」を延長し、更なる金融機関の貸出態度の緩和を日銀は目指している。

DIは失業率に先行する指標だ。DIの改善に従い、失業率が自然失業率とみられる3.5%を明確に下回り、強い総賃金の拡大がデフレ完全脱却への実感につながっていく動きは順調。しかし、グローバルなマーケットの不安定などにより、企業心理が弱体化し、DIも改善が一時的に鈍っていることが確認されていた。しかし、10-12月期に+17へ再び改善した。日銀は、企業収益の改善をともない、失業率が持続的に低下し、雇用環境の改善が続く限り、賃金上昇を経て2%の物価上昇がいずれ達成する道は堅調であると判断できるため、追加金融緩和には慎重なようだ。このDIの動きは、日銀の追加金融緩和の是非だけではなく、デフレ完全脱却を目指すアベノミクスの成否も左右すると考えられ、引き続き注目である。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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