決済の進化に見る中国人の才覚

先述の経営者からは、30万元(約600万円)を社員に持ち逃げされた話も聞いた。故郷まで追手を放ち、何とかとり押さえたが、「母が病気で」などと定番の弁解をしていたそうだ。

こうしたリスクから経営者は一族の者しか信じられず、一族経営から抜け出せない原因でもあった。ほんの10年前のことだ。たしかに最高額紙幣が100元(約2000円)というのは、今の中国物価からすれば少額にすぎる。現金は大部な荷物となり、持ち運びに苦労する。

しかしこのところ「銀聯カード」の急速な普及で、高額の買い物でも現金リスクは大幅に減少した。スーパーのレジでも現金払いはすでに完全に少数派となっている。今や銀聯カードの与信リスクの方が問題に浮上しつつある。

さらに進んでスマートフォン決済も盛んになった。最近のトピックとして「白タク」を挙げよう。近年スマホアプリを利用してタクシーを呼び出せるようになり、利用者には大変便利になった。

しかしその代償で流しのタクシーが減ってしまい、かえって公益に反しているのでは、と問題にもなっていた。そこへ付け込んだのが白タクである。これもスマホで呼び出せるばかりか、スマホ同士で決済まで完了させてしまう。おまけに会社への上納金がない分タクシーより安価ときている。あっという間にこれらのシステムを完成させてしまった。今度はタクシー業界が苦虫を噛み潰す番となった。

また株式のネット取引も進んでいる。取引中残高不足になれば、スマホからの指示で、銀行口座から証券会社の口座に即座に送金が可能なのだ。中国人の決済に関する創造能力は、もはや全開になってきた。全中国でのスマホ利用者は6億人を超えたとされる。これからも都市型キャッシュレス社会へとさらに加速していくだろう。

天国でもお金が必要な中国

2016年2月8日は旧正月元旦である。除夕(大晦日)の7日夜には、花火や爆竹でにぎにぎしく祝う。それとともに「焼紙」というチリ紙状の黄色い紙と、故人の好物などを燃やし、先祖の供養を行う。

この焼紙は、先祖が天(中国語では上天)で使う紙幣という意味がある。上天とは中国では唯一とも言える、形而上的、宗教的概念だが、そこも中国らしくやはりお金は必要だった。子孫が繁栄し、定期的に送金してくれないと安心して死ぬこともできない。

先祖たちは、人民元の国際的価値の上昇をどう思っているだろう。きっと力を得たと喜び、下界同様に欧米人や日本人の霊たちと、いつものつばぜり合いに没頭しているのではないだろうか。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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