業績が芳しくない老舗の文具メーカー、セーラー万年筆 <7992> で旧大蔵省出身の中島義雄氏が代表権のない取締役に退いたと発表された。生え抜きの新社長らによるクーデターとも報道されているが、「代表権」がどういうものか、お分かりだろうか。

ビジネスの現場では名刺交換をする機会も多いし、相手の肩書によって必要な対応が変わる場合もある。「相手の肩書になんて左右されない」という勇ましさも尊いが、常識として肩書の意味については知っておきたいものだ。

代表取締役=社長とは限らない

「代表取締役といえば社長のことでしょう?」と思う人が少なくない。たしかに一般的には代表取締役社長という肩書きを見かけることが多くあるが、法律上では代表取締役イコール社長ではないのだ。

まず名称の整理をすると、「社長」とは会社組織が定めている地位を示す呼称であるのに対して、「代表取締役」は会社法のなかで定められている機関のことをいい、商業登記されている人の肩書きとなる。

会社のトップである意味合いを持つ「社長」と、法的な権限や責任が定められている代表取締役では、言葉の概念が違うということを覚えておこう。肩書きの意味を知るためには、この会社法を知ることが不可欠といえる。

会社法で定められている代表取締役とは、会社の代表として業務を執行する代表権を有する取締役のことをいう。つまり、代表取締役が社長であるとは限らないわけだ。よく見られるのが、代表取締役会長のように社長以外が代表権を持っているというケース。

またオーナーが代表権を持ち、代表権を持っていない取締役社長を配置するという場合もある。ただし一般的には、社長という呼称は会社の代表である意味合いが強いため、取引上の便宜やトラブル回避を鑑みて、社長が代表取締役になることが多い。代表取締役は、取締役のなかから選任される。

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代表取締役が2人いるのはなぜ?

代表取締役が2人いる会社もある。「社長が2人?いいの?」と思われるかもしれないが、もちろん違法ではない。代表取締役は商業登記が必要なため、もちろん会社の判断で勝手に名乗れるわけではない。代表という言葉が持つ響きから、1人であるのが当たり前のように思ってしまいがちだが、会社法では、代表取締役の人数に特に制限を設けていない。複数名を選出することも可能なのだ。

会社法第349条では、原則として取締役が株式会社を代表するとして、代表取締役を定めた場合は代表権を有するのは代表取締役になるとしている。また、取締役が2人以上ある場合には、各自が株式会社を代表するとある。つまり取締役全員が代表取締役になることも、法律上は可能ということだ。

ここで注意しておきたいのは、代表取締役の選出にあたっては取締役会を設置しているか否かで異なるということだ。取締役会設置会社の場合は、取締役のなかから代表取締役を1人以上選出することが必要であり、取締役会はこの選任と解任の権限を持っている。

一方で、取締役会非設置会社では、各取締役が会社の代表権を持っているというのが原則となり、代表取締役を設置するか否かは、それぞれの会社の定款によって任意に定めることができる。取締役会非設置会社において代表取締役を選任しない場合には、取締役全員が会社の代表になるのだ。

ちなみに、代表取締役が複数いる場合に、トップの位置づけを社内外に示す目的で、その中の1人に代表取締役社長という肩書きをつけることもある。