少子高齢化の昨今、「生涯独身」「結婚はしたが子どもがなく配偶者に先立たれた」ーなどの「おひとり様」が増加傾向にある。健康で働いていたり友人と楽しんでいたりするうちはさみしくはないが、病気をしたり、介護状態になったりすると急に不安になったりさみしくなったりするようだ。弱ってくると今まで築いてきた財産が自分の死後どうなるのだろうかと心配になることもあるだろう。そこで、今回は「おひとりさま」の相続を考えてみたい。

マンションで女性が孤独死

あるマンションでの出来ごとである。夫の死後、自分名義の小さな古いマンションの1室で暮らしていた高齢の女性。兄弟とも死別したり疎遠になったりしていたが同じマンションに住む人たちとの交流もあり、少ない年金暮らしではあっても、日々健康で生活不安もなく暮らしていた。

ところがある日、女性の階下の住人から「マンション管理組合」に一報があった。「老婦人の様子がおかしい。ずっと水が出しっぱなしのようだ」。そこで関係者が女性の部屋に行ってみると女性は風呂場で亡くなっていた。事件性はないようだった。その後警察から連絡を受けた女性の甥がやってきたが、甥は迷惑そうな顔をしながら「放棄するので」と、いい残し帰って行った。遺体は警察に引き取られ女性の部屋のカギは閉められた…。

マンション管理組合の困惑、手続きを進めるために

その高齢女性の死後、マンション管理組合は甥に連絡を取ったが「(相続を)放棄するので関係ない」の一点張り。遺言書も無かったようだ。そして、部屋は施錠されたまま、管理費も払われず半年が過ぎた。マンション管理組合からすれば管理費が払われないのも困るのだが、その部屋を何もいじることもできず修繕などにも影響するし、何かを決議する際に1部屋分の議決権があてにできず、マンションの共有部分の何かを決める際にも困る。

「甥以外の相続人はいないのだろうか?」「本当に甥は放棄したのだろうか?」「部屋の中の食べ物が腐敗して悪臭を放っているのではないだろうか?」。

目の前には部屋の玄関のドアが見えるだけで本当に何も分からない。もし、相続人が全員放棄していたらその女性の部屋は何年でもずっとこのままのようである。例えば、女性の部屋の中で配管が古くなり水漏れしたとしても何も出来ずそのままにするしかないのである。

そこで、マンション管理組合は「管理費を滞納されている」利害関係者として、専門家に依頼し、被相続人(女性の法定相続人)を特定し①被相続人全員の最後の住所地の住民票②相続関係図③利害関係を裏付ける書類④返信用切手を貼った封筒を家庭裁判所に提出し、相続人の相続放棄の有無を照会した。

その後、相続人全員の相続放棄が明確になり家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てた。この際には申立書のほかに被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍や被相続人の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍、亡くなられている子や兄弟姉妹等がいればその方の出生時から死亡時までの全ての戸籍、財産管理人の候補者がいればその方の住民票等を添える。

とにかく申し立てまでには手間と時間と費用がかかるが、相続財産管理人が選任されれば相続財産の調査・管理、換価(換金)などをしてもらえるし、払われなかった管理費を相続財産から確保してもらえる。しかし、相続財産管理人の報酬を払うための資金を相続人のプラスの財産で賄えないときのために「予納金」を納めるよう請求がくる。「予納金」は数十万円から100万円前後で事案の難しさに応じて金額が決定される。この「予納金」は相続人のプラスの財産の範囲で清算されるため、返還額が少ないことや無い場合もある。相続財産管理人が選任されてから最終的な処理には1年ほどかかる。

誰に世話になるのか?準備したい5つのこと

このように「おひとり様」の場合、準備を怠ると、死後、様々な迷惑が他者にかかる場合もあるのだ。「おひとり様」が他者に迷惑をかけないためには以下の5つを準備しておくことが重要だ。

①世話になる人を決めておく
②住まいの処分方法を考えておく
③遺言書を残しておく
④遺品整理や葬儀費用などの資金を準備しておく
⑤最後に眠る場所を準備しておく

中でも、世話になる人を早めに決めてその人にきちんと意思を伝え、日ごろからコミュニケーションをとっておくことが必要だ。「おひとり様」にとって世話になる人の存在は、万が一の病気や介護の時にも重要な支えになってくれるはず。

ただし、世話になるためには十分な資金が必要だ。預貯金があれば理想だが、もし不足気味のようだったら保険の加入や住み替えなども視野に入れてみるのもよいだろう。しっかりとセカンドライフから相続の資金計画をたてることが「おひとり様」の円満な相続の第一歩。「立つ鳥跡を濁さず」を目指してみてはいかがだろうか。

廣木智代 ファイナンシャルプランナー(CFP)
結婚後、家業のスナックで手伝いをしていたが母の引退と共に廃業。家計の苦しさを埋めるための我が家の保険の見直しをきっかけに、お金に賢くなるお手伝いをするべくCFP資格を取得。心と体とお金の健康バランスを軸に、個別相談、セミナー、執筆を展開中。 FP Cafe 登録FP。