2015年12月、米国は金融危機後およそ7年にわたって続いたゼロ金利政策をやめ、9年半ぶりに利上げすることを決めた。世界的に先進国の金利はゼロ、ユーロ圏では“マイナス金利”にさえなっている中でのこの利上げ。日本人にとっても外貨、外貨建て商品への投資スタンスについて見直すタイミングといえる。
特に「今後、海外を視野に入れたい」「海外に行くことが増えそうだ」という若手ビジネスパーソンは、中長期の投資戦略を考えておくべき時ではないだろうか。
マネーの流れが変わる 次の利上げは英国?
2000年代以降、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカをはじめとするBRICs諸国や、Next11と言われる韓国やエジプト、インドネシア、フィリピン、トルコ、ベトナムなどの新興国にマネーが多く投じられ、当地の経済を発展させてきた。特に米国など先進国が行ってきた量的金融緩和(QE)で生まれた“緩和マネー”は、世界の株式相場や資源国・新興国を目指していた。
2016年になり、これからは、新興国に向かっていた投資マネーが先進国に回帰すると思われる。米国の利上げはその大きな転換点といっても過言ではない。
実は、緩和マネーが逆流して先進国に戻る――米国の通貨、株式、債券などに向かう――可能性については早くから指摘されてきた。現在は資源価格が下落していることもあってか、利上げの影響はあまり表面化していないが、今後は影響が出てもおかしくない。今でも、ドル円相場は円安基調であるにもかかわらず、多くの新興国通貨で円高が進んでいるのはその現れといえる。
米国のように利上げに舵を切る国がある一方、いまだに金融緩和を続ける先進国もある。日本や欧州だ。両地域の金融政策が急転換することは考えにくいが、英国への注目は高まっている。2015年5月の総選挙で保守党が単独過半数を確保した英国は、欧州の中で最も経済が回復傾向にあると言われており、当初は15年中の利上げが予測されていた。イングランド銀行(中央銀行)のカーニー総裁も7月、利上げの時期を年内にははっきりさせると発言した。12月に撤回したものの、経済が改善していることは間違いないことや、EU離脱を決める国民投票があることなどから考えると、5月ごろには利上げする可能性がある。
こうした環境の中で資産をどう保全し、運用するか。アベノミクスが第二ステージに入り、日本経済の景気回復の見通しが広がっている。物価が上がり、インフレに向かえば実質的な円建て資産が目減りすることになる。日本人の多くは「円」で資産を持っているはずだが、自国通貨だけの資産ポートフォリオはリスクが高い。日本が行っている金融緩和は、単純なゼロ金利政策ではなく、量的金融緩和も含まれているからだ。これは金融市場に大量に資金が供給されるもの。買い入れが行われている長期国債の金利は低下し、ETFやJ-REITの価格は上昇し、円の価値は下落した。結果として「円預金の金利低下」は実感としてあるのではないだろうか。
今、外貨建て資産を持つことの意味と主要通貨の特徴
それではどの外貨を持てばいいのか、主要な通貨と国・地域について順に考えてみよう。FXで短期投資を行うのではなく、あくまで資産を外貨に分散するという観点なら持つべき通貨は限られる。
現水準が買い場かどうかはさておき、まず基軸通貨としての米ドルの信頼性が揺らがない。米国は国内総生産(GDP)で世界一。人口や領土の総面積は世界トップクラスで豊富な天然資源も有し、今なお世界経済をけん引する存在だ。米ドルは世界の通貨取引の約42%を占める。世界的な有事(戦争など)の際も、米ドルが買われる傾向がある。
そしてEUの通貨ユーロ。1999年にEU加盟国中11か国で導入され(ユーロ貨幣の流通は2002年から)、参加国は現在19カ国に広がっている。欧州中央銀行はマイナス金利政策を含めた金融緩和を行っているものの、域内の経済状態に大きな格差が問題になっている。
欧州で忘れてはいけないのは、19世紀末までは世界の基軸通貨だった英ポンドだ。英国の2014年の成長率は2.6%と金融危機以降で最大の伸びだった。スイスフランはどうだろうか。同国経済は2014年に2%の成長率を達成するなど好調で、財政状態もいいが、スイスフラン高が急進した15年、成長率は少し鈍くなった。またスウェーデンクローナという選択肢もある。同国は2015年の経済成長率が3.6%で、2010年以来の大きさになる見通し。16年も3.1%の成長率を見込むというから驚きだ。個人消費や投資で内需が堅調だが、難民流入が財政の重石になりそうなことやユーロ圏経済の不透明感、中東・ウクライナなどを想定した地政学的リスクが懸念される。
金利が高い資源国通貨
オセアニア、北米に目を転じよう。豪州は炭や鉄鉱石など天然資源に恵まれており、貿易が活発なものの、主要な輸出相手国が中国のため、中国の景気減速による影響が大きい状況。とはいえ豪ドルは金利が高いことでも知られている。ニュージーランドは農業資源国であり、主な輸出先であるオーストラリア経済による影響が大きい。NZドルは豪ドル同様、金利が比較的高い。カナダドルは石油価格と高い連関性があるため、このところのWTI原油価格の下落は、輸出の約3割をエネルギー関連が占めるカナダには悩みの種だろうが、一方で石油価格の下落は米国の消費拡大にもつながるので、期待は持てるだろう。
アジアでは香港ドルだろうか。米ドルにペッグされている点が特徴。米国の利上げや中国経済の減速、香港の住宅相場の下振れなどがリスクになりそうだ。2016年の域内総生産(GDP)伸び率が1%にとどまると予測する金融機関もあるなど、先行きが楽天的というほどではない。
新興国通貨では南アフリカのランドだろう。資源輸出に経済を依存している南アは、最大の貿易相手国である中国の需要減速が大きな打撃となっている。財政赤字もなかなか縮小せず、経済成長率の見通しも引き下げられている。格付けが投機的になれば資金の流出が加速するおそれもある。
これらの通貨はFXでもメジャーであり、特に、国際決済銀行(BIS)の資料で最もシェアの高い通貨ペアであるユーロドル、ドル円、ポンドドル、豪ドル米ドルなどは流動性も期待できる。
外貨投資をまず始めるには
外貨にどういった形で投資するか。一番手軽に外貨を持つ投資法は外貨預金だろう。FXやほかにも外貨建て商品はいくつもあるが、外貨預金のメリットは手軽に始められる点にある。多くの銀行でサービス提供をしており、普通預金や定期預金があるため、高金利の恩恵を受けやすい。今後の動向次第で、為替差益も期待できる。
ただこれはデメリットでもある。為替変動のリスクを取っていることに他ならないため、為替相場次第で損失が発生する点には注意すべきだ。また預金保険制度の対象ではないことにも注意したい。また外貨建て商品の中では手数料が比較的高めでもある。こうしたデメリットも含めてしっかり検討すべきだろう。
資産を外貨にも分散しようと考える国際派の視点を持ったビジネスパーソンなら、ソニー銀行が1月からサービスを開始したVisaデビット付きのキャッシュカード「Sony Bank WALLET」を持つことを考えるといいだろう。円を含む11通貨の普通預金口座から直接、ショッピングの支払いやATMからの現金引き出しができる。海外に行って買い物など決済をすることがある人にとっては、デビットカードの中ではトップクラスといっていいほど充実した商品といえる。
ソニー銀行はもともと外貨預金がしやすいことで知られている。「外貨ワールド」を掲げ、外貨預金口座を中心に、さまざまな外貨建て金融商品の間を外貨のまま――円に戻したり替えたりすることなく――移動させる世界を構想、商品ラインアップを充実させている。外貨定期やMMF、FX、送金、積立購入などさまざまあり、特に積立購入は500円のワンコインからできるため始めやすいと評判だ。
「外貨に強いデビットカード」という選択肢
デビットカードを持つことのメリットはいくつもある。たとえば「クレジットカードは使いすぎが怖いので持ちたくない」という現金派にはピッタリだ。小銭を持ち歩く必要がない。もし紙幣や硬貨などの現金を財布に入れていて、スリや強盗に合ったり、事故などで財布を紛失したりしたら、戻ってくるとは考えづらい。デビットカードなら紛失時は発行元に連絡することで口座を守ることもできるし、不正利用補償も付帯されているので、現金とは違った安心感がある。海外に行けばこうしたリスクは高くなると考えておいたほうがいいだろう。
また支払いをしてレシートをもらっても、面倒になって財布に入れっぱなしということはよくある。レシートをもらったり家計簿を付けたりしなくても、デビットカードなら明細をスマホなどで見れば、「いつ、どこで、いくら使ったか」が簡単に分かる。
ビジネスでしばらく海外に滞在することを考えると、少なからず現金を用意しても、何日か生活しているうちに少なくなる。たとえば米国に出張したとしよう。ホテル近くのスーパーなどでちょっと生活必需品を買いたいと思ったとき、ホテルでは少額の両替ができない場合が多く、さらに割高な手数料がかかってしまう。
そんなとき、事前にソニー銀行で米ドルを預金しておけば、店で「Sony Bank WALLET」を出せば済む。現地の通貨、この場合は米ドルで即時決済できるうえ、手数料もかからない。もちろん、現金が必要な場合は、一定の利用料はかかるもののATMからの引き出しが可能。自分の口座から引き出すため、クレジットカードとは異なりキャッシング利息はかからない。米ドル以外でも、ユーロ、英ポンド、豪ドル、NZドル、カナダドル、スイスフラン、香港ドル、南アランド、スウェーデンクローナの10通貨で預金しておけば、その通貨で決済できる。万が一、外貨預金の残高が不足していても、円預金の残高のほうから自動的に不足分の外貨を購入、支払代金に充当する「円からアシスト」という機能もあるため安心だ。
東京五輪に向けて日本でも外貨が使えるようになる?
それに、クレジットカードなどで支払うと、買い物した時点と引き落とし時点でのレートが異なることがあるが、Sony Bank WALLETは即時で外貨を購入し決済されるため、その心配がない。
既に軽く触れたが、外貨預金は円預金と比べて基本的に金利が高い。政策金利を見ると、スイスやスウェーデンはマイナスだが、日本が0.1%の中でオーストラリアは2%、NZは2.5%などとなっている(2015年12月現在)。口座にお金を預けておくことを考えると、金利は高いほうがありがたい。
さらには、今後日本でも外貨決済ができる店やサービスが増えそうだ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、外国人観光客を増やしたいと考えているのは政府だけでなく、各サービス事業者でも同じだ。既に家電量販店などでは対応しているし、一部ホテルではクレジットカード決済ではあるが、決済通貨を選べるサービスを始めている。
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今後、先進国を中心に利上げが行われる可能性も高い。新興国に投資しておけば安心という時代ではなくなりつつある。投資マネーは常に金利とリスクを天秤にかけながら、金利の高い通貨へと流れ込むはずだ。2016年以降はこれまでの金融の常識とは違う常識で市場が動き出す。もしあなたが海外を意識しているのなら、ビジネスだけでなく、投資でも意識すべき時ではないだろうか。