(写真=PIXTA)
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日銀が、2020年の東京五輪の経済効果に関する試算を2015年12月28日に発表した。外国人観光客の増加や、約10兆円と見込まれる五輪関連の建設投資などで、18年の実質GDP(国内総生産)の水準は14年に比べて5兆~6兆円押し上げられ、20年までの経済効果は累計で25兆~30兆円にも上るとのこと。

あるいは、昨年又吉直樹さんの「火花」が芥川賞を受賞し、その経済効果は105億1322万円に上るといったニュースも話題になった。

このように、「経済効果○兆円」といったキャッチフレーズが飛び交うのを耳にするが、そもそもこの経済効果はどのようにはじき出されているのだろうか。以下では、その方法を紹介していく。

算出の基礎の考え方は経波及効果

経済効果とは、ある事象が発生することで、特定の国や地域にどの程度、経済的な影響をもたらすのかを試算したもので、その際に、ベースとなるのが経済波及効果という考え方。例えば、特定の産業で新たな需要が生まれると、その需要を供給するための生産活動も拡大。原材料の取引や消費活動を通じて、他の産業にも効果が波及していくという流れだ。

上述した「火花」のケースでは、書籍そのものの販売だけにとどまらず、原作をベースにした映画化や作者の又吉さんの受賞後のテレビ出演やイベントでの露出などの増加に波及していくことを考慮している。

他にも日本の基幹産業の1つでもある自動車産業を例にとると、新しい自動車の生産には、エンジンやバッテリー、タイヤなど細かな部品まで入れると、その数は約3万個にも上る。さらに、ゴムやプラスチックなど部品を生産するための原材料も必要となる。自動車の新たな生産に伴い、部品や原材料の生産も増加し、それに従事する働き手の所得がアップし、消費拡大が期待される。さらに、この消費需要を喚起するため、自動車産業とは直接は関係のない、食料や日用品の生産にまで影響を及ぼし、こうした一連の流れを経済波及効果という。

試算には産業関連表を使用

実際に、経済波及効果を測る際には、「産業関連表」という統計表を用いる。この表は、各産業間と産業と最終消費者との間のモノとサービスの取引の相関性をまとめたものだ。日本国内では、国全体を対象としたものは総務省が中心となり各省庁共同で5年ごとに作成している。また、都道府県や政令指定都市も作成に取り組んでいる。

産業関連表では、横軸に需要部門の産業、縦軸に供給部門の産業が並べられ、それらの各部門が交わった箇所に取引額が記載されている。モノやサービスを生産する際、どの産業から仕入れ、人件費がどれくらい要するのかといったことなどを示したものだ。

モノ・サービスの生産に必要な原材料を買い入れることを「中間投入」、生産にあたり発生した賃金、企業の利潤などを「粗付加価値」とし、この2つを合わせたものが「総生産額」となる。

野菜を例にすると、縦軸に沿っていくと、野菜の生産に必要な肥料や農薬など中間投入が必要となる。さらに、雇用者の所得と営業余剰を合わせたものが総生産額となる。この額は、表の横軸に沿ってはじき出される中間需要と最終需要の合計と同じとなる。これは、この表が経済活動を生産と販売の両面から捉えたものであるからだ。

経済波及効果額は逆行列係数表で計算

経済波及効果額については、この実額で表示された産業関連表だけではなく、それに手を加えた「逆行列計数表」を使って計算する。

こうした経済波及効果の試算は、政策などで訴えるのに効果的で、目にする機会も増えてきた。しかし、その試算がどのような需要や効果を含んでいるのかという点に注意する必要がある。(ZUU online 編集部)