インターネットを通じて小口資金を募る「ふるさと投資」が浸透しつつある。しかし、同じ地方創生を目的にしている「ふるさと納税」は、当初3000人程度の利用者だったが、自治体がそれぞれの地域に関連した豪華な返礼品を用意したことが話題を呼び、今や利用者は13万人にも拡大しているのに対して、「ふるさと投資」はまだまだ知名度が低い。では「ふるさと投資」は「ふるさと納税」のように一大ブームを創り出すことができるのだろうか。「ふるさと投資」のメリットとデメリットを考えることで、その成長性を検討しよう。
1口2〜3万円の出資で地方創生を支援
ふるさと投資とは、2015年8月に始まったばかりの新しい制度で、地方創生につながる事業に対して1口2〜3万円と小額で投資でき、出資先事業の売上に応じた分配金の受け取りや、特産品・宿泊券などのお特な特典を受け取ることができるという制度だ。
例えば、「伊賀産山田錦仕込み 半蔵ファンド2015」では、三重の銘酒として知られる「半蔵」を醸す大田酒造に1口3万円ほどの投資を行うことで、投資家特典として4500円相当の純米大吟醸「半蔵」伊賀山田錦がもらえる。他にも一口1万円から出資できる「神戸生まれの奇跡のローファーファンド」や、1口2万からの「大阪 実生ゆずのものづくりファンド」など2015年12月時点では件ほどのファンドが立ち上がっている。
ふるさと投資のメリット「地方支援と配当」
ふるさと投資のメリットの1つは、普段では投資先として選択できないような事業者に投資ができるようになったということだろう。ふるさと投資の対象となっている事業者はいずれも東証に上場しているような大企業ではなく、それぞれの地域に根ざして活動している規模の小さな企業である。そうした企業に直接投資を行うことができるようになったことは、地域の活性化を願っている投資家にとっては大きなメリットだ。
もう1つのメリットは、投資自体からも利益をきちんと出せる可能性が十分にあることだ。先ほど紹介した「伊賀産山田錦仕込み 半蔵ファンド2015」では、ファンド対象期間中の売上が直近の実績と同程度の水準であれば、3万円の分配金を獲得でき、それに4500円相当の「半蔵」も投資家特典として貰えることになる。つまり、直近実績の売上であれば、1口3万1710円の投資で実質的に合計3万4500円ほどが投資家の手元に戻って来るため、ファンドの決算までの約1年半で10%程度の利回りが見込めることになる。このように、もちろんファンドによって状況は違うと思われるが、直近の実績程度の業績でも十分なリターンを得ることが可能なファンドが存在しているのは投資家にとって大きなメリットでもある。
デメリットは「節税効果がない」「少ない情報量」
しかし、もちろんふるさと投資にもデメリットはある。ふるさと納税のような税金の控除・優遇が現時点ではないことである。ふるさと納税では地方の自治体に寄付をした金額は所得税と住民税から控除を受けることができるという明確なメリットがある。そのため、多くの人がふるさと納税に関心をもち、実際に利用者が13万人にまで拡大したのである。
しかしながら、ふるさと投資ではそのような節税効果はなく、出資金額を超える利益部分に対しては通常の株式投資での配当金と同様に約20%の源泉所得税がかかってしまう。
もう1つのデメリットは、投資先の事業者に対する情報が少ないことだ。東証などに上場している企業であれば、有価証券報告書など様々な情報が開示されているが、ふるさと投資の投資対象となっている事業者は小規模であり、そうした情報を開示する義務がない事業者ばかりである。そのため、各事業者の情報が少なく、質の高い事業者を見極めることが通常の投資よりも難しいと思われる。
ブームを起こすのは現状では難しい?
こうしたメリット・デメリットを考えると、ふるさと投資がふるさと納税のようなブームを巻き起こすことは難しいかもしれない。ふるさと納税では節税効果というリスクの無いメリットが利用者にはある。しかし、ふるさと投資にはそれがなく、事業者の詳細な情報を得ることが難しい。そのため、投資から利益を得ようとする投資家は通常の株式投資を選択する可能性が高く、ふるさと投資の利用者は地方を支援したいという純粋な気持ちから投資を行う人に限られてしまう可能性がある。
そのため、ふるさと投資がブームを起こすためには、節税効果をもたせるといった政府からの支援や、課税対象となるような配当金ではなく商品やサービスなどの投資家特典を充実させるといった明確なリターンや株式投資とは異なるリターンを充実させることが必要になるかもしれない。(ZUU online 編集部)