Googleやインテル、ゴールマンサックスなどで「マインドフルネス」と呼ばれる一種の瞑想法が研修に取り入れられている。同様の瞑想は故スティーブ・ジョブス氏やビル・ゲイツ氏、イチロー選手なども実践しているといわれ、シリコンバレーやウォール街のエリートたちの間にも広まっているほか、アメリカの雑誌『TIME』でも特集が組まれているほどの普及ぶりだ。
パソコンのメンテナンスのようなもの
マインドフルネスとは、アメリカの研究者が集中力を高めるトレーニングとして、座禅からヒントを得て考案したもの。日本語に訳すと「気づくこと」「注意深いこと」「意識すること」という意味になるが、そのまま「マインドフルネス」という呼び方が一般的だ。
上にも挙げた大企業3社でも研修に取り入れられ、Googleの場合、社員の10人に1人が自主的にその実践を継続しているという。日本でも研修に導入する企業が出てきているようだ。
マインドフルネスは瞑想法の一種だが宗教色は一切払拭され、「今ここで起きていることをきちんと感じ取る」というシンプルなやり方により、心を安定させて幸福感を高め、感情のコントロール力を身に付けていく。またストレス軽減の効果から免疫力の向上も期待されている。
マインドフルネスの実践者の中には、これをパソコンのメンテナンスに例える人も多い。たとえば、複数のアプリを同時に立ち上げるとパソコンの動作が重くなり、場合によってはフリーズする。それと同じことで、今ここで起きていないこと——過去の出来事や未来の心配に心がとらわれていると、今このときに対処すべきことに対して十分な脳のリソースが割り振られない。
これこそが「集中力を欠いた状態」の正体であり、マインドフルネスは「今ここで起きていることをきちんと感じ取る」ことで、本来あるべき脳のパフォーマンスを取り戻していく。
仕事や学業における生産性の向上が期待できる
マインドフルネスの実践を重ねると、自然にマインドフルネスの状態になるように脳が変化してくるという研究もある。アメリカのグループが発表したデータによると、マインドフルネスの実践を9年間継続した20人において、物事を客観的にとらえることに関係する「背内側前頭前野(はいないそくぜんとうぜんや)」という脳の部位が普通の人に比べて発達していたという。
このような人の脳はマインドフルネスの状態にあることが多いと思われる。その結果として、過去の経験からくる思い込みにとらわれない新しい発想や柔軟な物の見方、あるいは結果を求めて焦るのではなく、目の前のプロセスに十分な意識を向けることによる生産性の向上などが期待できる。集中力向上の結果として、記憶力と学習能力の向上も実際に見られる。
さらにマインドフルネスの状態にある人は「サンクコストの誤り」を免れる傾向もあるという。「サンクコストの誤り」とは、それまでに費やした時間や労力を惜しむあまり、先の見込みのない仕事や人間関係にしがみついてしまう傾向のこと。こうなると正しい意思決定ができなくなるため、マインドフルネスでこれを克服できるなら、そのメリットは大変大きい。
3分でマインドフルネスに! 「3分間呼吸法」
マインドフルネスの実践方法にはいくつかあるが、うつ病の再発を防ぐことを目的とした「マインドフルネス認知療法」においてセルフケア法として教えられる「3分間呼吸法」が初心者にはおすすめだ。やり方は次の通りだ。
1. 姿勢を正しくして座り、最初の1分で思考や感情、体の緊張などに注意を向けて観察する。マイナスの感情や感覚があってもそれを否定せず、「今ここで起きていること」として受け流す。
2. 次の1分では呼吸に意識を向ける。この方法の名前に「呼吸法」とあるが、特別な呼吸をする必要はなく、自然な呼吸でよい。
3. 最後の1分では体全体の感覚に注意を向ける。
このうち「呼吸に意識を向ける」というステップがもっとも重要で、ちょっと空いた時間を利用してマインドフルネスの状態になりたいときは、単に呼吸を意識するだけでもよい。意識するのが難しい人は、吐く息と一緒に「ひとーつ」「ふたーつ」と数を数えると、呼吸へ意識を向けやすくなる。
この「3分間呼吸法」に慣れてきたら、すべての行動をマインドフルネスの対象としてもいい。たとえば、食事のときは一口一口を意識して味わい、歩くときは足の裏の感覚を意識し、シャワーを浴びるときは皮膚で弾ける水滴をよく感じてみる。すると、モヤが晴れ渡るかのように脳がすっきりとクリアになるのを実感できるだろう。
マインドフルネスの実践に10分ほどの時間を割くことができ、さらに英語が分かる人なら、AndroidとiOSに対応した「HEADSPACE」という瞑想支援アプリを利用するのもおすすめだ。これは、マインドフルネスの実践をナレーション(英語)で誘導してくれるもので、Googleでも活用されているという。(ZUU online 編集部)