高齢化,日本財政
(写真=Thinkstock/Getty Images)

深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、この20年間の日本経済の停滞の一因になっていたと考えられる。そのような固定観念が行き過ぎると、財政を緊縮にした方が、景気がよくなるという極論に陥ってしまう。

実際に、消費税率引き上げなどの財政再建によって、将来の金利高騰への懸念が小さくなり企業が投資を増やし、社会保障の持続性への信頼感が増し家計は消費を増やし、経済には刺激効果があるという、消費税率引き上げを推進してきた「安心効果」が信じられてきた。

しかし、高齢化を恐れ、過度に準備を進めてしまうと、緊縮財政を含めて過剰貯蓄に陥ってしまい、日本経済の状態を将来にわたってより深刻にしてしまうリスクがある。これまでは、高齢化比率が上昇しているにもかかわらず、緊縮財政や年金基金が積み上げられ続け、過剰貯蓄がデフレ圧力として現役世代の負担を過度にしてきたと考えられる。

過剰貯蓄による悪循環

高齢化の進行以上に、貯蓄が大幅に前倒されることは、総需要を破壊し、短期的には強いデフレ圧力につながってしまう。過剰貯蓄により名目金利は低下するが、現実以上に誇張された悲観論が蔓延しているため、経済活動は刺激されない。

総需要の破壊によるデフレ圧力は名目金利の低下以上となり、実質金利は上昇してしまう。実質金利が実質成長率を上回る状態が継続してしまい、企業活動は更に萎縮し、家計の雇用・所得環境も更に悪化され、高齢化の影響を上回る総賃金のパイの縮小が加速してしまう。

総賃金の縮小による家計貯蓄率の低下が更なる財政不安につながり、増税と社会保障負担の引き上げが過剰貯蓄として総需要を更に破壊し、企業の意欲を更に削ぎ、生産性上昇の機会を逸し、それが家計のファンダメンタルズを更に悪化させるという悪循環に陥ってしまう。

名目GDP成長率がマイナスとなれば、名目長期金利が0%程度まで低下しても、そのスプレッド(名目GDP成長率-長期金利)はマイナス(抑制する力が拡張する力を上回る)であり、経済とマーケットの活動を阻害し続けてしまうこともその悪循環に拍車をかけてしまう。

企業の意欲と活動が衰えると、イノベーションと資本ストックの積み上げが困難になるとともに、若年層がしっかりとした職を得ることができずに急なラーニングカーブを登れなくなり、高齢化に備えるためにもっとも重要な生産性の向上が困難になってしまう。

高齢化は、供給者(生産年齢人口)に対する需要者の割合が大きくなるため、長期的にはインフレ圧力に変わる。それまでに生産性を大きく向上させることに失敗していれば、高齢化による「破局」(低成長と高インフレ、そして財政逼迫)が早まってしまうことになる。

経済低迷を招く過度な悲観論

高名な国際政治学者であった高坂正堯氏の名著「文明が衰亡するとき」(新潮選書)の、「衰亡は、避けなくてはならないという気持ちをへたに持つと、かえって破局が早くやってくるというところがある」という警句は、現在の日本に一番よく当てはまる。

国民は危機に気づいていないから、悲観論を誇張してでも準備を早めなければいけないという考え方は危険である。これまでの政策がこのような悲観論に基づいたものであったことが、経済活動を萎縮させ、日本経済の長期低迷の一つの原因で、衰亡を早める危険を大きくしてしまっていたのかもしれない。

高齢化が恒常的なデフレ圧力であるという誤解は、静学(長期的にも結論が一緒)と動学(短期と長期で結論が異なる)の違いに対するエコノミストの理解不足と、深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念と過度な悲観論による過剰な準備がその圧力を増大させてしまったのが理由であると考えられる。

これまでの現実以上に誇張された悲観論を払拭し、楽観論に基づいた政策により経済活力の復活させ、それで高齢化の準備を進めるというアベノミクスのアプローチは正しいと考える。

悲観論から逆算した危機を回避する政策より、楽観論から逆算した明るい未来を作り出す好循環を目指す政策の方が有効であると考える。経済・マーケットが楽観論を持てるような政策を含む財政拡大であれば、本当に必要とされる政策の積み上げで国債発行が必要になったとしても、マーケットは国債不足に悩んでいる状態では混乱がないばかりか、デフレ完全脱却と日本経済の復活への力を推進するだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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