中国には一般消費税はなく、普通のショッピングで課税されることはない。指定された品目だけに課税され、消費税のなかでも贅沢品には奢侈品税が課されている。
1994年に11の商品類に消費税が、2006年4月には高度経済成長に伴う新富裕層の出現に対応し税目の調整が行われた。
中国は化粧品の税率が高い
その消費税対象品目をJETROの資料から抜き出してみた。①タバコ、②酒、③化粧品、④貴金属アクセサリー類、真珠、宝石、玉、⑤爆竹、花火、⑥製油品、⑦オートバイ、⑨自動車、⑩ゴルフボール、ゴルフ用品、⑪高級腕時計、⑫ヨット、⑬木製割り箸、⑭木製床板、となっている。
⑧が欠番なのは当初の11商品類に含まれていた、肌・頭髪クリーム、が抜けた影響だろうか。製油品が2商品類だったのが1つにまとまり、⑩~⑭が追加されて13類となった。
奢侈品とは、国際的な定義に則り「人々の生存と発展のための需要範囲を超えるものの一種で、独特、希少、珍奇などの特性を持つ消費品」とされている。とすれば奢侈品(贅沢品)とは、⑤・⑩・⑪・⑫のことだろうか。
タバコは製造段階で課税される。それを除き最も税率が高いのは⑨自動車のうち排気量 4000cc 以上が40%、次は化粧品の30%である。化粧品の30%は高級腕時計の20%よりも高い。日本での化粧品爆買い要因のひとつと考えてよいだろう。
他の品目は概ね15%以下である。ただし輸入品にはこれにプラス輸入関税もかかってくるから、仮に販売価格を100とするとそのうち40~50は税金で占められる。この結果、中国国内での販売価格は、香港比で45%、アメリカ比で51%高いという。海外での購入が増えるのは必然だ。
中国人は心底お宝好き
課税の目的は、「社会収入の分配を調整し、幅広い社会的公正を体現すること」とある。2006年以降、その目的は達成できたのだろうか。2005年9月に世界四大会計事務所の一つアーンスト&ヤングの発表したレポートでは、中国奢侈品市場の売上額は20億ドル、となっていた。それが2015年には115億ドル、世界の消費総量の29%を占め、アメリカを超えると見られている。別統計(世界奢侈品協会)では2012年、すでに146億ドルに到達した、としている。奢侈品税の税収は上がっただろうが、本来の目的に対する成果としてはどうなのだろう。貧富の差は拡大するばかりだ。
さらに中国特有の現象もある。南京大学教授の分析によると、世界の奢侈品市場では、普通、奢侈品消費にかけるお金は財産の4%程度という。ところが中国ではそれに40%もの財産を傾ける人が少なくない。しかも富裕層のみでなく、中産階層にまで「財力を超えた」こうした傾向が見られる。さらに若年化も進んでいるという。また中国ブランド戦略協会の研究では、2012年段階で「奢侈品消費人群」は人口の13%、1億6000万人と推測している。中国人は心底お宝好きなのだ。
株式バブル崩壊でも個人消費への影響は軽微
中産階級の中国人に、「奢侈品と聞いて何を連想しますか?」と聞いてみた。すると、骨董品という答えが一番多く、次に木製品(中国人は紅木でできた暗赤色の家具を好む)、ブランドバッグなどだった。貴金属、宝石アクセサリー類を挙げた人もいた。これらの商品群は高級レストランとともに反腐敗、汚職撲滅運動の影響で売上げを落とした業種に重なる。
ブランドショップを中心とした高級ショッピングセンターの某テナントオーナーに、話を聞いた。同センター内のプラダ、ルイ・ヴィトン、バーバリーなどのショップや高級婦人服ショップは、2014年、軒並み、40%~50%売上げを落としたという。
2015年になってやっと前年実績まで戻すようになり、11月に打った全館挙げての大セールでは、久々の賑わいを見せた。2014年に反腐敗運動が進み贈答(贈賄)需要を大きく失ったが、本来の商圏で歩み始めたということだろう。
しかし奢侈品市場全体の2014年売上は、先のドルベースとは別資料だが、▲1.0%にとどまっている。店頭の売上減などものの数ではなかった。株式バブル崩壊にも個人消費がびくともしないのは、こんなところに一因があるのかも知れない。金持ちは奢侈品という経済変動に耐え得る分厚いクッションを、たくさん持っているに違いない。
世界の「宝島」化しつつある中国の行方
奢侈税には国内でもいろいろな議論がある。賛成派はやはり公平収入分配の観点から有用とする。所得税だけでは富裕層の所得をうまく移転できないし、そもそもこの種の消費は合理的とは言えず資源の浪費である。抑制効果があって一向にかまわないだろう。
反対派は、奢侈品は需給も価格も振幅が大きく、安定した財源にはならないし、財政に占める比重もわずかなものだ。このような差別税率は消費の選択を混乱させ、課税逃れ(密輸など)の原因ともなっている。海外購入が多いのは富の流出ではないか、との主張だ。
これらの議論の行きつく先はわからない。ただ中国にはトレジャーハンターが少なくとも1億6000万人存在しているのだ。こうしている間にも、どんどん奢侈品が中国に集まり、世界の「宝島」と化しつつあることは間違いなさそうだ。(高野悠介、中国在住の貿易コンサルタント)
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