(写真=PIXTA)
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2015年に離婚した夫婦は22万5000組――。厚生労働省が2016年1月に発表した「平成27年人口動態統計の年間推計」による数字だ。これは2分20秒に1組が離婚している計算である。結婚した夫婦が63万5000組だから、もはや離婚は決して珍しいことではない。

本稿では、福岡県にて開業している行政書士が離婚に関する誤解について解説する。離婚相談は毎月のように受けているといい、「誤解がまん延していることを痛感させられている」という。一般に多いと考えられる4つの誤解とはどんなものだろうか。

誤解1 「養育費」の請求には時効がある

離婚して2年経つという女性Aさんから、「子どもの養育費って時効がないって本当ですか」と相談を受けた。「養育費の請求には時効があって、後で請求ができない」と思っている人はかなり多いが、これは誤解だ。

誤解の原因として考えられるのは、財産分与の時効が離婚後2年、慰謝料の時効が離婚後3年なので、これと混同されている可能性だろう。

財産分与・慰謝料と養育費との決定的な違いは、前者(財産分与)は配偶者が請求できる権利であるのに対し、後者(慰謝料)は子どもが請求できる権利だという点である。Aさんの場合、子どもが父親に「養育費を払ってください」という権利を、Aさんは子どもの親権者として代行するのに過ぎない。

相手に「お金をください」となかなか言えない人が多いのか、離婚した後で「養育費のことを決めておくべきだった」と後悔する人が実に多い。現にAさんも早く離婚したいがために、「養育費なんかいらない」と言ってしまったという。相談を受けた筆者は、元夫のもとへ「内容証明書」を送り、家庭裁判所での話し合いがもたれ、養育費の額・支払方法が決定した。

誤解2 「慰謝料」は結婚年数×100万円?

離婚の原因が、相手の不貞行為(つまり浮気)だった場合、慰謝料を請求できる。「慰謝料って『結婚年数×100万円』ですよね」と、相談に来た女性Bさんから聞かれた。誰に聞いたかを尋ねたところ、「友人に聞きました」との答え。

この「慰謝料=結婚年数×100万円」の計算式が“都市伝説”のようになっているが、これも正しくはない。おそらく慰謝料の額を算定する基準として、「長い結婚生活を送った夫や妻の不貞行為は重大な背徳行為である」という考え方から、この計算式だけが一人歩きをしているのではないかと考える。

しかし、「精神的な苦痛」を受けた人が受け取れる慰謝料の額は、おそらく一般の人が思うほど多くはない。しかも不貞行為を行った配偶者の収入・財産などを無視して、「結婚年数×100万円」というのはありえない。

裁判所が出している「司法統計年報」によると、裁判所で認められた慰謝料の金額は100万円から1500万円程度とばらつきはあるものの、それでも2000万円を超えることは極めて少ない。平均すると300万円台が相場だ。

誤解3 子どもは親権を持った母親の「姓」をそのまま名乗れる?

未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、父親、母親のどちらが「親権」もつかを決めて離婚届に記載しなければ、役所で受理してくれない。厚労省の統計によると、母親が親権をもつケースは80%を超えており、総じて子どもが幼いほど割合は高い。そこで問題になるのが子どもの「苗字(姓)」である。

相談に来た女性Cさんから「離婚届の親権者の欄に母親の名前を書いたら、自動的に母親の姓になるんですか」と聞かれた。Cさんは子どもの親権を自分が持ち、姓を旧姓に戻すという。Cさんのように考えている人は多いが、残念ながら自動的に母親と子どもが同じ姓になることはない。そのためにはやや面倒な手続きが必要だ。

両親の離婚後、子どもは原則として結婚時の夫婦の戸籍に残る。また母親は離婚した後、夫の戸籍を出て別の戸籍を作ることになるので、母親が親権者でも母親と子どもは戸籍も姓も違うことになる。

母親が子どもと同じ姓、同じ戸籍にしたい場合には、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出し、子どもの姓を変更する許可を受けなければならない。その許可が下りたら、家庭裁判所から発行された「許可審判書」を添えて、最寄りの役所に「入籍届」を提出する。ここで初めて、母親と子どもが同じ戸籍に記載されて、同じ姓になる。

誤解4 「公正証書」の作成には本人の出席が必須

離婚に関する情報がネットで容易に入手できるようになり、最近は調べて相談に来る方が多い。離婚の際に決定した財産分与や子どもの養育費の支払いを確実に実行してもらうため、離婚協議書を「公正証書」にしたいという人も増えている。

相談に来た女性Dさんから、「『公正証書』って、厳正な公文書だから絶対私と元夫が公証役場に行かないとダメなんですよね」と聞かれた。たしかに公証役場で公正証書を作成する際には、当事者の出席が必要であり、さらに印鑑証明書の提出などによって本人確認が行われる。公正証書は確実な証拠となるためだ。

しかし、離婚した元夫とは二度と顔を合わせたくないというDさんの気持ちは、大多数の人が持っているのも事実だ。

幸いなことに公正役場へは代理人の出席も可能とされている。そこで筆者が代理人となって公証役場に行き、公証人立会いの下で元夫とで協議を行い、公正証書を作成した。

離婚の全体件数も増え、また1人で複数回の離婚を経験している人も増えているようだが、とはいえ離婚は人生において何度も、誰でも経験することではない。またなかなか周囲の人に相談できないこともあり、こうした誤解がまん延しているのかもしれない。離婚は人生において一つの転機となるだろう。誤解のために誤った選択をしてしまうのであれば、こんなに悲しいことはない。その後の人生のためにも、こうした誤解はなくなって欲しいものである。(ZUU online 編集部)