政治家秘書
(写真=HPより)

甘利経済再生担当大臣が1月28日、建設会社の関係者からの政治献金を受け取っていたことを認め、騒動の責任をとって辞任を表明した。秘書・事務所が行ったこととされるが、甘利大臣は「私の監督下にある事務所が招いた国民の政治不信を『秘書のせいだ』と責任転嫁することはできない」と述べた。

この事件については、7月の参議院議員選挙、また噂されている衆参同時選挙に向けて、野党は自民党一強時代を崩すべく、ようやく見つかった不祥事に大攻勢をかけていた。

今回の件では、本人よりも公設第一秘書の行動が問題であったとされている。思い起こせば昨年に問題になった武藤貴也衆議院議員の金銭問題についても、武藤議員の政策担当秘書が問題であったとされている。ドラマ等では悪徳政治家が、「秘書が勝手にやった」と秘書のせいにして言い逃れようとする場面が散見されるが、報道の限りでは今回や武藤議員の問題では事実、秘書に原因がある様に見受けられている。

この様に続く政治家秘書の不祥事、政治家秘書の制度やなぜこの様なモラルハザードが起こってしまうのか今回は見ていきたい。

政策担当秘書だと年収1200万にも

国会議員の秘書と一概に言うものの、秘書には3人の国家公務員秘書とその他の私設秘書が存在する。国家公務員秘書とは、公設秘書と呼ばれ、彼らの給料は国から支給をされる特別職国家公務員だ。

上から政策担当秘書、第一秘書、第二秘書の3人が存在しており、政策担当秘書は政策担当秘書試験の合格もしくは長期の公設秘書実務経験が求められるが、第一秘書や第二秘書については選任の条件は存在しない。政策担当秘書になると最高で年間1200万円近い年収となる国家公務員でもかなりの高給の部類に入る。

これらに加えて多くの事務所では私設秘書を採用しており、こちらは事務所自体が採用し給与を払っている秘書だ。秘書ではなく事務員と呼んでいる場合もいるが、事務員も含めて私設秘書は多い所では数十人採用されている。

これは元首相や官僚の事務所の場合だ。これらの私設秘書の給与は月額20万円やそれ以下の場合が多く、将来の立候補に向けて肩書きや経験を得る為に事務所入りする場合が多い。

一方で少ない事務所では私設秘書なし、もしくは1人~2人の所も存在している。私設秘書は議員の身銭から採用する秘書となるので、地元にどこまで力を入れるかによって私設秘書の採用人数が異なる。

一概には言えないが、多くの場合政策担当秘書は国会事務所、第一秘書は地元事務所所長、第二秘書はいずれか手薄な事務所に配属される事が多い。かれら3人の国家公務員秘書が政治家事務所をコントロールしているのだ。

モラルハザードが起こりやすい第一秘書

今回の甘利大臣の疑惑は、地元事務所の所長である第一秘書が甘利大臣の選出選挙区である神奈川県大和市の業者との収賄・斡旋疑惑だ。主たる職場が国会となる国会議員、ましてや答弁機会なども多い現職閣僚ともなると地元に帰ってこれる時間が少ないと考えられる。

その様な場合に国会議員の名代として、様々な所に代理出席を行い挨拶を行うのが第一秘書であり、地元の所長だ。

また政治資金パーティーのパーティ券を売りさばき政治資金を集める事も主業務の一つである。その為、地元の企業経営者との関係性構築も第一秘書に求められる。地元企業との交友関係や発言力が高まる事は想像に難くない。地元の為に活動する事は政治家に求められる事の一つではあるが、一歩踏みはずすと今回の疑惑の様な収賄や斡旋と言った話になってくる。

また寄って来る者は秘書の後ろにいる国会議員の権力を見越して近づいているのであるが、彼らが秘書自身の権力に寄り添ってきているのだと誤認識した際に今回のようなモラルハザードが起こってしまう。

もちろん優秀な秘書も多数存在

秘書が国会議員への登竜門の一つにもなっている事もあり、秘書には優秀で志のある者も数多く在籍している。現職の国会議員や地方議員、また知事などの首長にも国会議員秘書が多い。当選しバッジを付ける前から国会の場での議論を間近で見たり、また議論に加わったりする事は、将来の政治を担う人材を教育する為には必要な事であろう。

また時には大企業での勤務経験者が立候補に向けて秘書として入る場合もあり、大手マスコミや外資系金融機関の出身者、中央省庁での官僚出身者、シンクタンクから転職して来た者など優秀な人材も数多く存在しており、時に国会議員よりも秘書の方が優秀な事務所も散見される。

しかし大半の事務所の秘書は政策担当秘書の肩書きがつきながらも民間企業における総務部の様な仕事を行っており、政策立案、民間に企業における経営企画の様な業務は行えていないのが現状だ。秘書間における能力格差は民間の比ではない。

政治家だけでなく秘書にも注視を

また地元では有力な支援者の親族で職を持っていない者を押し付けられえる場合もあり、地元秘書で一悶着ある事務所も多いのが実情だ。結局は優秀か、また志があるか否かがこの様な事件を引き起こすかどうかの違いとなって現れるのかもしれない。

政治家秘書は、政治家と共にこの国の舵取りをしている人たちである。彼らがモラルハザードを起こし、不祥事を起こさないように、秘書についても私たち国民がしっかりと理解して、見ていかなければならない。(木之下裕泰、金融・政治アナリスト/MBA・金融工学修士)