高まっていた追加金融緩和の可能性
政策委員の多くは、実質GDP成長率が潜在成長率(0.5%程度)を下回ること、企業の雇用・設備の過剰感が高まり、需要不足幅が持続的に拡大していること、または失業率が上昇して賃金上昇が見込めないことが確認されない限り、物価目標はいずれ達成することになり、追加金融緩和は必要ないというスタンスだったと考えられる。
日銀は、12月の金融政策決定会合で、輸出の判断を「横ばい圏内」から「持ち直し」へ既に上方修正している。1月の月例経済報告では、政府は生産の判断を「弱含んでいる」から「横ばいとなっている」へ上方修正している。
確かに、グローバルなマーケットの不安定感が更に増加するとともに株安・円高が進行し、黒田日銀総裁の「必要と判断すれば、さらに思い切った行動をとる容易がある」という発言もあり、追加金融緩和の可能性は以前より高まっていた。しかし、政府・日銀が輸出と生産の判断を上方修正し、景気動向に改善がみられるとの判断の中で追加金融緩和が決定するには、それを正当化するかなり強いロジックが必要であった。今回も景況判断に大きな変更はなかった。
追加金融緩和の正式理由とならない株安や円高
ハト派とみられる白井・原田審議委員も、10月30日以降に行われた講演で、企業収益の改善をともない、失業率が持続的に低下し、雇用環境の改善が続く限り、賃金上昇を経て2%の物価上昇がいずれ達成する道は堅調であると判断できるため、追加金融緩和には慎重な見方を持っていることが明らかになっていた。
失業率は、自然失業率とみられる3.5%を持続的に下回り、労働需給は引き締まり始め、雇用環境の改善に変調はまったく見られない。布野審議委員も、「消費者物価指数など1つの指数が落ちたから自動的に緩和ということはない」とし、株安など一時的なマーケットの動きへの対応についても「必ずしも必要ない」と強調していた。
重要なことだが、株安や円高は、日銀の追加金融緩和の正式な理由とすることはできないことになっている。10月30日に、直前までグローバルなマーケットは脆弱で、成長率と物価見通しを大幅に下方修正し、2%の物価目標の到達時期を後ずれさせながら、追加金融緩和に踏み切らなかったことの整合性も問題であった。
しかし、2014年10月の追加金融緩和時と同様に、原油安がインフレ期待を押し下げてしまっていることがその正式な理由となった。10月時点より、BEIやインフレスワップでみたインフレ期待は明確に低下している。さらに、当時より、新興国の景気減速への懸念が強くなっていることが、その理由を補強したと考えられる。
日銀は「このところ、原油価格の一段の下落に加え、中国をはじめとする新興国・資源国経済に対する先行き不透明感などから、金融市場は世界的に不安定な動きとなっている。このため、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調の悪影響が及ぶリスクが増大している」と、インフレ期待の下落がリスクになっていることを説明している。
しかし、1月25日にダボスで黒田総裁がインタビューに答えて「現時点で期待インフレ率は比較的維持されており、大きく低下しているとは思わない」と発言していた。さらに、黒田日銀総裁は、これまでの金融政策の緩和効果と持続性に対する疑念、そして金利引き下げの可能性も強く否定してきた。インフレ期待に対する日銀の判断、そして政策の考え方が突然に変化したことになり、いつもながら、マーケットとのコミュニケーションの弱さが問題だろう。