1月28日・29日の日本銀行・金融政策決定会合で量的・質的金融緩和に加えて金融機関から預かっている日銀当座預金の一部に付けている金利(2016年1月29日現在0.1%)を、マイナス0.1%に引き下げることを決めました。今回はその解説をして頂きます。
マイナス金利導入とその背景
日銀は、1月28日・29日の金融政策決定会合で量的・質的金融緩和に加えて金融機関から預かっている日銀当座預金の一部に付けている金利(2016年1月29日現在0.1%)を、マイナス0.1%に引き下げることを決めました。分かりやすく言うと、民間金融機関が日銀に預ける日銀当座預金に日銀が利息を支払うのではなく、民間側が預金の保管に対して日銀に手数料を支払うことになります。
導入の背景には、原油安が進んでいることに加え、中国をはじめとする新興国や資源国の経済の先行きが不透明であり、金融市場が世界的に不安定になっていることがあります。企業や個人のデフレ意識の転換も遅れ、日銀のかかげる物価目標2%の実現も難くなっている事情もあります。それではマイナス金利の仕組みやねらい、今後の留意点などを見ていきましょう。
導入されるマイナス金利の仕組み
まず、導入されるマイナス金利の仕組みです。日銀は、市場に供給するお金の量を年間80兆円のペースで増やし、現在の金融緩和は維持します。そのうえで日銀が金融機関から預かっている日銀当座預金(日銀が国債購入代金などを個別金融機関の口座に入金。総額約250兆円規模)のうち「既往の日銀当座預金残高」を超える金額に限り、金利を現在のプラス0.1%からマイナス0.1%に引き下げます。つまり、これから増加する残高分のみ、マイナス0.1%を適用します。
マイナス金利のねらい
続いてマイナス金利のねらいですが、民間金融機関側から見るとハッキリします。
金融機関は、融資と預かった預金とのギャップである余っている資金(預金の3割程度<全国平均>)を運用しています。主に国債などで運用していますが、日銀当座預金に資金を置くことで得られる0.1%の利息収入は貴重です。マイナス金利導入により逆に日銀への金利の支払い(コスト負担)となれば、金融機関にとって収益が圧迫されます。
日銀は、金融機関が少しでも有利な運用先を求め、「融資」や「株式投資」を活発化することを期待しているのです。ただ、融資といっても"企業や家計が元気よく借りる"ことが大前提。設備投資や賃金引き上げといった企業活動が俄然注目されます。
今後私たち消費者が留意すること
最後に、今後の留意点を2点指摘します。
まず、マイナス金利が諸金利を低下させるスピードや波及の程度は様々であることです。反応が早いのは市場で決まる債券の金利。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、マイナス金利の導入決定日に素早く反応し、歴史上初の0.1%割れを記録しました。この金利は、住宅ローン金利に影響を与えるなど国民生活に直結します。
一方、金融機関の普通預金金利などは、金融機関ごとで慎重に検討されます。おそらく普通預金がマイナス金利となることは、預金者の猛反発から実現しないと見ていますが今後注目です。
2点目は、マイナス金利の導入による「副作用」の存在です。日本がこれまでに経験したことのない領域に入りますので、金融商品や金融機関経営への影響は念頭に置いておきたいところです。
金融商品においては、利回りが低下(現在、残存期間8年の国債までマイナス金利となっている)する「公社債」などを投資対象とする金融商品は要注意です。MRF、MMFなどのファンドは、国債等の公社債中心に運用していることから、維持が難しくなるでしょう。新規募集停止などの生じる可能性が高まるように思われます。
また、金融機関においては、利ざやの縮小といった問題が浮上するでしょう。預金金利は現状維持せざるをえない(下げても微減)のに対して融資金利は下がりやすいためです。従って、金融機関の収益環境が悪化しますと振込手数料やATM手数料が値上がりする心配や、体力のない金融機関の再編が進む可能性もあります。
未知の領域であるマイナス金利の到来は、他人事ではありません。金融商品例えば長期公社債投信や終身保険などへの波及を含めて今後の動向を見守っていきましょう。
小松英二(こまつ えいじ)
マイアドバイザー登録ファイナンシャル・プランナー。FP事務所 ゴールデンエイジ総研代表 ホームページhttp://www.fpkomatsu.com/
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