2015年はユーロにとっては至難の一年だった。7月にはギリシャの金融支援を巡って一時は、ギリシャがユーロから離脱する懸念まで高まった。結果的にはギリシャのチプラス首相が財政再建策をまとめ、金融支援協議が決着した。交渉期間中は、ギリシャ国内銀行の営業が停止し、預金引き出しも制限され、ATMの前に長蛇の列が並ぶのが度々ニュースで取り上げられていたのは記憶に新しい。

そのギリシャの財政再建を支援した欧州中央銀行(ECB)は、2015年3月から景気刺激とデフレ回避の名目から量的緩和(QE)をスタート。月額600億ユーロで国債を買い入れ、2016年9月末まで継続してトータルで1兆ユーロ以上の資金を供給する予定だ。しかし、このQEを決定した2015年初には想定していなかったほど、原油安が加速し、デフレ懸念がくすぶる。2016年はユーロにとってどのような展開が待ち受けているのか、探ってみる。

さらなる追加量的緩和を示唆

米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを決定した2015年12月、ECBは追加の金融緩和策を打ち出した。その内容は、中銀預金金利を0.10%引き下げマイナス0.3%としたほか、債券プログラムの買い入れ期限の6カ月の延長。買い入れの増額などより大胆な内容を期待していた市場からは失望の声が上がった。ECBのドラギ総裁は、「追加緩和は中銀の目標達成を目指したもので、市場の期待に応えるためのものではない」と一蹴した。

そのドラギ総裁は、足下の原油安、新興国や中国の経済減速を受け、金融市場に混乱が広がり、ユーロ圏経済にも影響が及んでいるとして、2016年3月のECB理事会で金融政策スタンスを見直すと明言。昨年12月の追加策では、市場の失望を招いたせいか、金融政策手段について「制限はない」と強気の姿勢を示している。

EU圏にとっての重石は原油安だ。昨年12月時点でECBは、2016年の原油価格の平均を1バレル52.2ドルと想定。しかし、年明けから原油安に歯止めがかからず、1バレル=30ドル割れの水準まで落ち込んだ。原油安は、他のモノやサービスの価格までにまで悪影響を及ぼし、ECBが設定するコアインフレ率2%弱の目標を遠ざける。インフレターゲットを達成し、景気を刺激するために、3月にどのような追加の量的緩和策が打ち出されるか注目が集まる。

英国のEU離脱の国民投票リスク

2015年のギリシャに続き、16年にユーロを悩ませそうなのが英国だ。英国では、ヨーロッパ連合(EU)が掲げる移動の自由の原則から、移民の流入が止まらず、教育や医療など社会サービスの負担が増加。それに嫌気をさしてEUに対する不満が高まり、ついにはEUからの離脱の賛否を問う国民投票を実施するになっている。

キャメロン政権で外相を務めるハモンド氏は、国民投票は2016年6月にも実施することができるとのスケジュールを示した。キャメロン首相は、移民に対する福祉の手当てを制限するなどの改革案をEUに突きつけながら、EUに残留する道のりを模索しているとみられる。しかし、世論調査では、EU離脱の賛否は拮抗しており、国民投票の行方から目が離せない。

英国はEU加盟国だがユーロ圏内には加わっていないため、独自の通貨ポンドを維持しており、ユーロを導入していない。国民投票の結果次第で、英国がEUから離脱となれば、ポンド、ユーロともに影響は避けられないだろう。

難民流入、テロ、地政学的リスク

英国がEUへの不満を募らせた主な理由として、移民の流れが止まらないことが挙げられる。この人の流れは、中東やアフリカなど政情不安な地域から逃れてきた難民も加わり、ヨーロッパ各国は困難な課題に直面している。

難民の支援をめぐっては、シリア難民の男児が溺死した写真が世界中に広まり、衝撃を与えた。これに呼応して、ドイツは80万人の難民を受け入れる意向を表明。2015年の1年間では、100万人を超える移民や難民がドイツに流れ込んだ。しかし、難民の受け入れを巡っては、ヨーロッパ諸国がドイツのように積極的な姿勢を見せているわけではなく、むしろ経済的な負担として敬遠する動きもある。移民や難民の政策を巡ってEUは一枚岩で対応ができないほど、移民や難民が次々と押し寄せている状況だ。

さらに、ヨーロッパでの移民や難民の積極的な受け入れに水を差したのが、2015年フランスのパリで発生したテロ事件だ。1月には新聞社が襲撃され、11月にはコンサート会場など複数の場所で同時にテロが発生。テロ事件後は、ユーロがしばらくの間、下落基調をたどった。ヨーロッパでのテロの脅威はいまだなお収まっておらず、地政学的リスクとしてユーロにも影響を及ぼす。

2016年のユーロ相場は、まずは、春先のECBによる追加の量的緩和策の内容がサプライズを伴う内容となるのかに世界中のマーケットの視線がそそがれる。その後も、英国のEU離脱を問う国民投票が控え、ユーロ投資には、材料視できるイベントが続く。一方で、テロ事件など突発的な出来事が発生する可能性もあり、片時も目が離せない神経質な相場が続きそうだ。(ZUU online 編集部)

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