外国人観光客が日本でランドセルを買っているという話題で盛り上がっています。ハリウッド女優が使い始めたことで火がつき始めたと言われていますが、外国人から見ると、ランドセルはカワイイアイテムらしいのです。
ランドセルを背負ったビジネスパーソンを見ることはありませんが、実は「スーツにリュック」姿のビジネスパーソンが増えています。街を観察していると多い時で10人に1人は見かけることがあります。
今回は「スーツにリュック」のビジネスパーソンの行動観察をしてみました。
知らぬ間に増えている?「スーツにリュック」のビジネスパーソン
「最近、街中を歩いているとリュックを背負った人をよく見る気がする」と感じたことはないでしょうか。私も2年ほど前からリュック愛用者となっています。
2014年ごろから徐々にリュックサックが静かなトレンドになっていて、特にリュックの利用がビジネスシーンまで広がっています。例えば、Google Trendsを使って「ビジネス」「リュック」を調べると、検索数は2014年から徐々に増加しており、上昇トレンドにあることが分かります。
こうしたトレンドを受け、老舗アパレルメーカーから様々なビジネスパーソン向けのリュックサックや3WAYバッグが発売されています。土屋鞄製作所が創業50年を記念して昨年11月に販売した「OTONA RANDSEL」は、10万円という超高級リュックにも関わらず、発売後に即日完売。現在も予約受付ができないほどの人気になっています。
昨年は様々なブランドからも新作が登場、女性向けの新作としてFJALLRAVEN(フェールラーベン)のKANKEN BAG(カンケンバッグ)が、男性向けではTHE NORTH FACE(ノースフェイス)のBC FUSE BOX(ヒューズボックス)が売れ筋商品となり、いずれもブログや雑誌、ニュースサイトなど様々なメディアで取り上げられ、大きな話題になりました。
ビジネスパーソン向けリュックは、昔からありました。ただ最近になってまたなぜブームになってきたのでしょうか。そこで実際にリュックサックを使っている20?40代のビジネスパーソンを直撃インタビュー。なるほどと思えるブームの理由を3つ見つけました。
リュック姿のビジネスパーソンを直撃したら分かった3つのこと。
街行くリュック姿のビジネスマンに直撃インタビューを続けていると、リュックを愛用する人たちには3つの理由があることが見えてきました。
その1 楽だから
必ずといって出てくるワードは「楽だから」。そうリュックは楽なんです。楽な理由は様々にあります。印象としてはノマドスタイルの働き方が増えてきていて、ノートパソコン、タブレット、資料や書籍を持ち歩きながら仕事をしているうちに、片手カバンからリュックに切り替えたという様です。
「仕事柄ノートパソコンを持ち運ぶので、片手カバンだと疲れる」(20代女性)
「通勤中に重い鞄を持っていると腰にクる。リュックの方が圧倒的に楽」(40代男性)
「自宅でも仕事する様のを認めてもらったので、子供が病気のときに会社を休んで家で作業をする、終わらなかった仕事を子供が寝てから片づけるといったスタイルに変わりました。結果、パソコンや資料を持ち歩く様になって荷物が増えてしまいました」(30代女性)
その2 両手が空くから
次に出てくるキーワードは「両手が空くから」。スマホが片時も手放せない私たちにとって両手が空くのはマストになっています。片手でも操作はできますが、両手の方が操作はずっとしやすくなります。
直撃インタビューをして分かったことは、男性も女性も出社前に保育園に子供を預けている人たちが多いということ、スマホ操作のためにリュックにしているだけでなく、子供を抱き抱えたり、自転車で送り迎えしているからといった理由でリュックを選んでいる人たちも少なくありませんでした。
「リュックの方がスマートフォンを操作しやすい。LINEやアプリを使うときは両手を使っているので」(20代女性)
「リュックだと保育園に子供の送り迎えをするときに抱っこしたり、空いている手で子供の荷物を持てる。帰りに買い物などもしやすい」(30代男性)
「水筒や手帳、化粧ポーチなど仕事に持っていくものが多い。でも大きいリュックサックはかわいくないものが多い」(20代女性)
その3 リュックがOKになっている感じがする
インタビューしながら私が理解したのは、リュックがOKになっているという印象を7割以上人たちが持っていたということです。リュックがOKやNGというのはどこにもルールはありませんが、特にスーツ姿の男性はなんとなく片手カバンで通勤が常識で、リュックの通勤は非常識という境目を持っていた様です。
「大学の時はリュックだったけど、社会人はNGだと思っていました。でも電車の中とかでリュック姿を見かける様になって、自分も切り替えました」(30代男性)
「きっかけは台風のとき。震災以降、台風とか地震とか色々あって、万が一を考えると両手が空いていた方がいいし、いろいろなものも入れられるので便利」(40代男性)
「大震災のときに自転車で通勤した際、初めてリュックを買いました。その後しばらく使っていませんでしたが、去年の雪の日からまた使い始めました」(30代男性)
まだまだ伸び代があるビジネスリュック市場
つまりリュックを使っている人たちはこんな風に考えています。
(世間の目線)リュックOK。いつでも使っても許される感じ。
↓
(自分の目線)両手空くし、色々入るし、何より楽(前から知っていたけどね)。
↓
(周囲の目線)でも、スーツに自分のリュック似合ってる?
スマートフォンやタブレットの利用機会が増えたり、在宅勤務を始めとしたワークスタイルが変わってきたり、リュックを使う理由は明快です。しかも、世間がスーツにリュック姿で通勤することを認めつつあるわけですから、今後リュック愛用者は増えていくに違いありません。ところが、今のリュック愛用者に悩みを聞くと意外な声が挙がってきました。
「ビジネスシーンでリュックを背負うのは抵抗があったが、一度使ってみると便利でやめられない。ただし、今は、冬でコートなのでリュックサックを合わせやすいが、春になってジャケットになると合わせにくいのでどうしようか困っている」(30代男性)
「リュックに合わせられる服が少ない。ブラウスやワンピースには合わせくい」(20代女性)
「ビジネスで使えると思えるリュックが少ない。ネットで探しても見つからない」(30代女性)
伊勢丹のカバン売り場に行くと、すでにリュックもたくさんの種類が有ります。でもインタビューで指摘されている様に、片手カバンと比べると、全体の2割程度とまだまだ少ないのも事実で、洋服とのコーディネートで合わせられるほどの種類はまだまだありません。
これまで、リュックは機能重視でしたが、ユーザーが広がってくると今後デザインやイメージ重視で選ぶ人たちがどんどん増えてきます。スーツにリュックOK時代はもっとヒートアップしていくのは間違い無し。
高橋広嗣(たかはし・ひろつぐ)
フィンチジャパン
代表取締役。早稲田大学大学院修了後、野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルタントとして活躍。2006年「もうひとつの、商品開発チーム」というスローガンを掲げて、国内では数少ない事業・商品開発に特化したコンサルティング会社「
フィンチジャパン
」設立。著書に『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』がある。