(写真=PIXTA)
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2月9日、東京債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の市場利回りが史上初のマイナスとなった。このことに対して多くの市場関係者のコメントを見ていると、どうも腑に落ちないものが多い。専門家の説明としては、「マイナス金利で10年国債を購入したとしても償還に際しては元本部分しか戻ってこないため、クーポン収入と合算しても損をする」という説明が多い。

教科書的に見れば間違いではない。しかし、ではなぜそうなったのかの説明がいまひとつピンとこない。また、厳密にいえば、10年物の金利がマイナスとなったわけではなく、その投資利回りがマイナスとなったという事だ。

長期金利が初めてマイナス金利となった理由

直接の原因は、日銀のマイナス金利の導入だが、これは民間銀行が日銀に預けている当座勘定預金のわずか一部だ。日銀の予想でも10兆円~40兆円程度がマイナス金利になると伝えているとおりだ。

しかし、日本国債の発行残高がすでに1000兆円を超える状況下で、10年国債までもマイナス金利となったという事実は注視すべきだ。これは償還期限が10年以内の国債すべてがマイナス利回りになることを表している。発行残高全体の8割程度がマイナス金利になったということだ。

マイナス金利の影響は株式市場も影響を受ける

上述のように、今回の日銀のマイナス金利導入決定は、現実的に見るとそこまで規模が大きなものではない。本来マイナス金利が適用されるのは、日銀の当座預金勘定の一部であり、いままで積み上げてきた当座預金勘定にある200兆円を超える預金には今まで通り0.1%の金利が付加される。

しかしこの政策が発表されて、現実にはメガバンクを含む銀行株が大きく下落している。さらに外国為替市場でも、円高ドル安が進んだ。この政策が発表された直後には、117円台から121円台まで瞬間的に円安に進行したが、それも短期間に終わった。2月10日現在は114円台まで下落しており、政策発表前よりもさらに円高が進んだ格好になる。

ドル金利が低下してドル相場が大きく下落したことが要因だろう。米国経済の景気鈍化懸念から年内4回の利上げは難しいと判断、さらには今年の利上げは無いという見方が多くなっている。いずれにしても、今回の日銀のマイナス金利導入という変化球は、とんでもない暴投になったようだ。

10年国債の利回りがマイナスまで下落した理由

どれをとっても今回の日銀のマイナス金利が及ぼした悪影響は広範囲に及んでいるとしかいえない。

しかし、純粋な経済活動に照らし合わせると、企業が設備投資を図っても、現状のような低成長下において収益確保は難しいだろう。いくらマイナス金利を導入しても、借り手側にその意欲がない状態であれば借りたいとも思わないだろう。したがって、今回の日銀のマイナス金利導入は、金融政策としては失策であり、現状では更なるデフレの促進にしかならないのではないか。

安定的な成長として2%の物価上昇を目指す日銀がマイナス金利を導入したことは、例えば「風邪をひいている患者を、水風呂に入れと言っているようなものである」。

本来であれば、行き過ぎた自国通貨高により経済成長が阻害されている状況下において、マイナス金利政策は効果を発揮する。スイスがあまりにユーロに対してスイスフランが高かったことからマイナス金利を導入した。また、一部の北欧の国が同じようにマイナス金利を導入したことはあった。

しかし、アベノミクスにより80円台から120円まで下落した状況で間違った金融政策を取ったことで、逆に市場は日本景気の鈍化を感じ取り、日本株市場が大きく下落し、ドル円相場も予期しない円高方向に振れてしまった。

マイナス金利政策を今後も続ける限りデフレは助長されるだろう。日経平均株価でみると、黒田総裁が2回目のバズーカ砲を放った2014年10月水準の1万4000円台まで逆戻りする可能性もあるだろう。(ファンドアナリスト)