タレント議員
(写真=HPより)

自由民主党が参議院選挙全国比例代表の新人候補者として、今井絵理子氏(32)を擁立した。かつて人気を博したアイドルグループSPEEDの一員、歌手である。

沖縄県出身、また障害を持つ息子がいることから障害者に対する政策について知見があると説明されていたが、タレント候補の枠を超えてはいないと受け止められている。発表時の質疑についても今後の歌手活動への影響など、芸能ニュースの様な質疑もなされていた。

今回の今井氏の出馬に関しては、タレント政治家の先輩でもある山東昭子参議院議員による推薦であったとされ、山東議員も会見に同席していたが、タレント候補の擁立は果たして国益となるのか。現在のタレント政治家や海外でのタレント政治家を見ながら考えてみたい。

タレントの知名度を利用する政党

現在、与野党問わず多くのタレント出身の政治家が立候補、また当選も果たしている。これらを擁立する最大の理由は、その知名度だ。今回の今井氏の場合でも、政治家の名前を誰一人知らない20代は多くいても、SPEEDを知らない20代はおそらく少ない。

全国比例代表として擁立することで、自らを当選させるだけでなく、比例票として他の候補者の当選にも力になる可能性が高い。

また通常の政治報道だけでなく、芸能報道にも取り上げられる可能性も高い為、党の広告塔としても役に立つ。参議院全国比例代表はその選挙制度からもタレント候補が擁立されやすい。有権者は全国比例代表では投票所でずらりと並ぶ候補者名から、候補者を選んで投票、もしくは政党名を記入する必要がある。業界団体出身の候補はその団体には候補者名が浸透しているであろうが、一般有権者とは距離がある。その為、一般有権者に150人近くの中から自政党の候補者を選んでもらう為に、一般有権者に知名度が既に浸透しているタレント候補を利用するのである。

活躍する多数のタレント政治家

「タレントを擁立」と言うと、多くの有権者は当初、拒否反応を起こす。しかし振り返って見ると、近年、政治の世界では多数のタレント議員・政治家が活躍し、むしろ政治を牽引している。代表的なタレント出身の政治家としては、両者とも現在引退はしているが、石原慎太郎元東京都知事、橋下徹前大阪市長が真っ先に上げられる。

両者共に賛否はあるが、彼らの政治手腕は歴史に名を残した。今回、今井恵理子氏を推薦した山東昭子参議院議員は「クイズの女王」というタレントから、閣僚を経て現在は自民党の派閥の長まで上り詰めている。

景元参議院議員は宝塚女優から閣僚を歴任、参議院議長を務めた。これらは彼ら自身の能力によるものであり、出身業界がタレント・芸能界であったからではない。現役でも与党には丸川珠代環境大臣はアナウンサー出身、三原じゅんこ参議院議員も近く閣僚入りが確実視され、その勉強意欲は省庁からも一目おかれている。舛添要一東京都知事は政治学者というよりもジャーナリスト、コメンテーターとしての知名度が高く出馬に至った。

野党では蓮舫衆議院議員、山本太郎参議院の言動は注目されており、また今井雅人衆議院議員、藤巻健史参議院議員も金融業界出身とはいえ、国政進出以前より知名度が極めて高い人物であった為、一種のタレント政治家とも言える。

現在の政界で多くのタレント議員が、タレント出身という枠を超えて活躍しているのだ。タレント出身は政治家としてダメだと耳にする事もあるが、この発言は彼らの活躍から目を背けたイメージ論でしか無い。むしろ彼らこそタレント政治家と言われない為に、他の政治家以上に努力をしているのかもしれない。

米国でも活躍するタレント政治家

ハリウッド俳優からカルフォルニア州知事、そして米国大統領を2期務めたタレント政治家が米国にもいる、ロナルド・レーガン氏だ。彼もカルフォルニア州知事に立候補した際にはタレント候補だと見られていたが、州知事時代、また大統領時での財政政策、また強い米国の構築は現在でも根強い人気を保つ。日本においても人気のある大統領の一人であろう。ターミネーターシリーズで知られる俳優アーノルド・シュワルツェネッガー氏もカルフォルニア知事を2期務めている。映画監督のクリント・イーストウッド氏もカリフォルニア州のカーメル市で市長をしていた。

その他にもフィリピンにも俳優出身の大統領が居たりと、海外においてもタレント政治家が活躍している。タレントとして活躍する者が、政治の世界で活躍する事例が世界中で発生している。

タレント候補と言うと、否定的に見られる場合が多い。しかし今回の今井氏にしても元アイドルだったことを除けば、聴覚障害を持つ実子と2人で頑張って来たシングルマザーだ。その様なバックグランドや、会見時にほぼ常時手話で同時に発言をしていた事を見ても、障害者向け政策に対して真摯に取り組む事は疑念がない。

現在推進されているクールジャパン政策についても専門家、アーティスト側からの政策構築にも関わってくるであろう。政治家を選ぶのは私たちである。タレント候補だからといって賛否するのではなく、そのタレントとしての能力をどの様に政治に使ってもらえるのかを考えながら、来る参議院選挙では投票すべきだろう。(木之下裕泰、金融・政治アナリスト/MBA・金融工学修士)