2000年代に入り、新興国は世界経済の成長エンジンを担ってきたが、ここ数年は資源・エネルギー価格(石油・貴金属・非鉄金属・農産物)の下落により、むしろ世界経済の足カセとなっている。ここでは、こうした状況を踏まえ、まず資源・エネルギー価格が新興国経済に与える影響について考察したうえで、資源・エネルギー価格および新興国経済の長期見通しを示したい。

資源国経済への影響は甚大

一般論として、資源・エネルギー価格が新興国経済に与える影響は大きいといえるが、その度合いは経済構造により異なるため、国によって少なからぬ差がでる場合もある。新興国のうち、一次産品の輸出比率の高い国は資源国と呼ばれており、まずは新興国を資源国と非資源国に分けて考えることが望ましい。

資源・エネルギー価格が資源国経済に与える影響は、文字通り直接的であり、影響も大きいことは明らかだろう。2000年代に入って資源国経済が急成長し、資源ブームと呼ばれたことは記憶に新しいが、この背景には資源価格の上昇による輸出と投資の拡大があった。

逆に、資源・エネルギー需要の低下は輸出低迷となって資源国の成長を抑制する。さらに、価格調整が大きく、長期化した場合には経常収支の悪化懸念に加え、歳入を資源収入に依存している資源国も少なくないことから、経常収支と財政赤字の「双子の赤字」に陥るリスクが高い。また、双子の赤字が通貨価値の下落をもたらし、通貨安が輸入物価を押し上げてインフレも加速しやすい。さらに、資源ブームにより投資が拡大した国では、資源価格の反落をきっかけに資本の逆流が起こり、通貨安に拍車がかかる傾向もある。

こうした国々では、景気の低迷で景気対策が必要となっても、財政赤字が財政出動の足カセとなるほか、インフレ懸念も金融緩和をためらわせる要因となることから、身動きがとれなくなる危険性を内包している。そうなると、景気の後退が深刻化かつ長期化する可能性がある。ここ数年のロシアやブラジルがよい例だ。特定の資源価格の下落、例えば原油価格下落の影響は産油国に限られるが、世界経済が全体的に減速する局面では、ほぼすべての商品価格に下げ圧力が働くことから、輸出産品によらず、マイナスの影響を受けることになる。現在がまさにこの状態といえる。

商品安は非資源国には追い風となる

新興国のなかでも非資源国は、資源・エネルギー価格の下落はインフレ圧力を低下し、むしろ成長の押し上げ要因となる。また、非資源国の成長は、グローバル化による貿易や投資の拡大が生産性の向上を促したためと考えられており、資源価格そのものには依存していない。たとえば、東南アジア諸国では、最近の資源・エネルギー価格の下落を受けても、資源国にくらべてその影響は小さかった。

エネルギーを輸入に頼る非資源国では原油価格の下落により、貿易収支や財政収支が改善する。輸入が減少することに加え、補助金などで燃料価格を抑える必要もなくなるので歳出を削減できるからだ。また、インフレ率の低下を通じて家計の実質購買力も上昇するので消費活動も活発化する。例としては、インドやインドネシアが挙げられる。

相場のポイントは日米欧の金融政策

資源・エネルギー価格の下落は中国経済の減速とドル高が主な要因となる。中国は非鉄や鉄鉱石など金属の世界消費の約50%、エネルギー消費の約20%を占めており、中国の成長鈍化が供給過剰をもたらしたことは事実である。ただし、価格への影響は景気減速そのものよりも、人民元の切り下げに象徴される中国からの資本流出が、市場参加者のリスク回避的な行動を誘発し、資源国を中心に新興国からの流出を招いたことのほうが大きい。

人民元安の背景には行き過ぎたドル高があり、ドル高が米利上げ観測に後押しされてきたことを振り返ると、結局のところ、資源・エネルギー価格の下落は米金融政策の正常化と表裏一体の関係にあることが分かる。したがって、FRB(米連邦準備理事会)が正常化をすすめる限り、資源・エネルギー価格の上昇は望み薄となり、少なくとも抑制された状況が続くと予想される。

一方、ECB(欧州中央銀行)と日銀が相次いでマイナス金利を導入したことは商品市場には明るい材料だ。マイナス金利の導入は、現金の価値貯蔵手段としての役割が低下することを意味するので、現金から実物資産へと資金が向かうことが期待される。したがって、低成長・低インフレにより日欧がマイナス金利幅を拡大し、さらにFRBも追加利上げを見送るような展開となれば、商品価格も浮上のきっかけをつかめるだろう。

資源・エネルギー価格の持ち直しは2017年以降となる見通し

世界銀行によると、2016年の原油価格は1バレル=37ドルと前年比27.1%下落するものの、2017年は29.7%の上昇と急回復する見通し。2018年以降はおおむね7%ペースで上昇を続け、2020年の原油価格は58.8ドルまで回復するとしている。

原油価格下落の理由としては、過剰在庫、需要の減少懸念、OPECによる市場シェア維持政策、イランへの制裁解除による輸出再開見通しなどが挙げられている。ただし、これらの弱材料を考慮しても、30ドル以下の価格は正当化できないとしており、今後は価格の低迷により不採算となった生産施設が閉鎖されて供給が減少し、需給が改善することで原油価格も底入れするとしている。

2016年の貴金属価格は前年比8.0%下落、2017年も0.3%下落する見通し。2016年の金価格は1オンス=1075ドルと前年比7.3%下落、2017年は0.8%下落するとした。2018年以降も緩やかながらも下落が続き、2020年の金価格は1041ドルまで低下するとしている。米金融政策が引き締めに向かったことからドルが上昇し、貴金属価格を押し下げたが、ドルが反落した場合には価格の上振れもありうるとしている。

2016年の金属価格は前年比10.2%下落、2017年は4.2%上昇するとした。供給過剰が続いていることから当面は軟調な展開が続くものの、設備投資の削減で供給能力が鈍化することから中長期的には需給が引き締まり、価格も反転するとしている。

2016年の農産物価格は前年比1.4%下落、2017年は1.6%上昇するとしている。農産物は、良好な気候に恵まれたことで豊富な在庫を抱えてしまったが、景気の回復にしたがって需給も改善に向かう見通しだ。

二極化が一段と鮮明になりそう

新興国では、資源・エネルギー価格の下落によって二極化が進んでおり、この動きは2016年も継続する見通しだ。まず資源国をみると、ロシアとブラジルは2015年から2016年にかけて2年連続でマイナス成長が予想されている。エネルギー依存度の高いロシアでは、原油価格の下落で財政難に陥っており、通貨ルーブルの急落でインフレ率も2ケタ台となっている。さらにウクライナ問題による経済制裁も景気の悪化に拍車をかけた。鉄鉱石などの鉱物資源やコーヒーや大豆といった農産物の輸出大国であるブラジルも、財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に加え、通貨レアルの急落、高いインフレ率と4重苦だ。貴金属の輸出大国としてしられる南アフリカも2016年の成長率は1.4%と冴えない。

世界銀行によると、2016年の新興国の成長率は4.2%が見込まれているが、資源の輸出国に限ると成長率は0.9%にとどまり、資源国と非資源国で大きな差がついている。原油安の恩恵を受けるとされる、インドやインドネシアは好調を維持し、インドの2016年の成長率は7.8%、インドネシアは5.3%とそれぞれ成長を加速する見通しだ。

最後に中国をみると、2016年の成長率が6.7%と2015年の6.9%から減速、2017年も6.5%が見込まれており、成長スピードの長期的な鈍化は避けられそうもない。中国経済の減速は既に織り込まれているものの、減速スピードが予想以上となった場合には資源・エネルギー価格にもマイナス要因となる。

2016年も資源国には厳しい状況が続くことになりそうだが、非資源国に関しては悲観的になる必要はなさそうだ。さらに、2017年に向けて資源・エネルギー価格の回復が見込まれていることから、長期的には資源国も非資源国の後を追うことが期待される。(ZUU online 編集部)