日経平均株価は年初から2893円(▲15%)下落するなど、2016年の日本株相場は波乱のスタートとなっている。足元では年初からの株安を主導した海外勢の売り圧力は和らぎつつあるが、投資家心理は依然として強気になりきれない状態が続いている。3月期末を控え金融機関や年金基金などが株価の行方に気を揉むなか、今回は年度末に向けて日本株がどのような動きとなるか探ってみたい。
まず現在の株価がどのような状態にあるかを確認しよう。人民元や原油相場、米国経済を巡る不透明感を背景とした世界的なリスクオフの流れを受けて、日経平均株価は年明けから下落基調が続いた。2月に入り、ドイツ銀行の経営不安が台頭したことが世界的な株安に拍車をかけ、日経平均株価は2月12日に1万4952円まで値を下げる場面もあった。
ただ、その後ドイツ銀行による債券買い戻し計画発表やサウジアラビアとロシアによる原油増産凍結案を受けて、欧州と原油を巡る不安はひとまず和らぎ、日経平均株価は1万6000円前後まで値を戻すなど、日本株の過度な下値不安はいったん後退した格好だ。
ひとまず下げ止まった日本株相場だが、3月も落ち着いた動きが続くのだろうか。結論から言えば、3月の日本株は堅調な相場展開が期待できるとみてよいだろう。まず3月相場で押さえておきたいのは、政策イベントが目白押しということだ。
市場が注目する4つの経済イベント
市場が注目しているのは、5日から始まる①中国・全人代、10日の②ECB理事会、14、15日の③日銀金融政策決定会合、15~16日の④米FOMCだ。先述したように、市場は悪材料が複合的に絡みあうことで、世界的なリスクオフの流れとなってきただけに、こうした市場の動きを収めるには、政策面での国際協調的な動きが不可欠といえる。
こうしたことを踏まえると、中国全人代では、景気の先行きや人民元に対する市場の不安を鎮めるような政策が打ち出される可能性が高いとみているほか、ECB理事会では、ドラギ総裁がこれまで示唆してきたように、追加緩和策が発表される公算が大きいとみる。
とりわけ、今回のECBの緩和策の内容には市場の注目が集まっており、マイナス金利幅の拡大や量的緩和終了時期の延長だけでなく、国債買い入れ規模の拡大にまで踏み込む内容となれば、世界の株式市場にとって支援材料になりそうだ。足元でドイツ銀行の経営不安が台頭しつつあることを踏まえると、これまで国債買い入れ規模の拡大に反対してきたドイツ連邦銀行(中銀)も苦渋の決断で受け入れる可能性も浮上しており、ECBが踏み込んだ追加緩和策を打ち出す可能性は高いとみる。
日銀については前回の会合で追加緩和に動いたこともあり、今回の会合では政策変更はないだろう。ただ、4月会合での緩和可能性を示唆することも想定され、そうした場合は市場の期待を高めることにつながりそうだ。
FOMCでは性急な利上げは米経済ならびに世界経済のリスクとなるとの見方から、利上げを見送る可能性が高い。FOMC声明文についてもより利上げを急がない「ハト派」的なトーンを強めた内容になるとみており、昨年の米利上げに端を発した世界的な金融市場の混乱が収まるキッカケとなろう。
株安を放置すると困る安倍政権が動く
3月相場は日米欧中による協調的な政策面での動きが顕在化することから、これまでリスクオフポジションを積み上げてきたヘッジファンドが、株式などのリスク資産の買い戻しを活発化させるとみており、こうした投資環境の落ち着きは日本株を押し上げる材料となりそうだ。
また市場では期末に向けた安倍政権の政策対応に関心が高まっていることも見逃すべきではないだろう。3月は年度末ということもあり、年金基金などの期末時点での運用成績が確定する。前年度末と比べてTOPIXが15%下落(2月25日時点)、ドル円が7円程度円高(同)に振れていることを考えると、多くの年金基金は2015年度の運用成績がマイナスとなっている可能性が高い。
とりわけ、世界最大の年金基金として知られる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、リスク資産である国内外の株式や外国債券への投資比率を高めたこともあり、このままいくと数兆円規模の損失が発生するとみられる。
こうした事態を放置すると困るのは安倍政権だ。今年は参院選を夏に控えているが、2015年度のGPIFの運用成績が発表されるのは7月とみられており、莫大な評価損が明るみとなれば選挙戦にマイナスに働くことになるためだ。特に安倍政権は水面下で衆参ダブル選の可能性も探っているとみられるだけに、悪材料を少しでも減らしておきたいというのが本音だろう。
となると、このところの株安により日本株の買い余力が増したGPIF自身が日本株買いに動く可能性があるほか、ゆうちょ銀行による日本株買いも想定できる。また、当局者が経済対策や消費増税先送りなどに対して前向きな発言を示すことで3月期末に向けて株価を意図的に押し上げる展開が見込めよう。
日経平均株価予想「1万7500~1万8000円程度」
これまでみてきたように、外部環境の落ち着きに加え、安倍政権による政策対応などを背景に、3月の日本株相場は戻り歩調を辿るとみている。ただし、人民元リスクや原油安リスクなどリスク要因が山積している状況には変化がないため、戻るとしてもあくまでも一時的な戻り局面として捉えるべきだろう。
特に日本株は来期の利益が10%以上の減益になると想定しており、来期業績を前提にすれば、日経平均株価は戻ったとしても1万7500~1万8000円程度が限度とみている。中期的な視点に立てば、日本株の下落トレンドは続くとみており、3月の戻ったところでいかに日本株の持ち高を落とすことができるかがポイントとなりそうだ。
石黒英之(いしぐろ・ひでゆき)
専門商社勤務を経て2004年に岡三証券に入社。入社後は渋谷支店で個人営業に従事。2006年岡三経済研究所経済調査部(現:岡三証券 グローバル金融調査部)を経て、2008年岡三証券投資戦略部日本株情報グループに配属。2010年日本株情報グループ長(現:日本株式戦略グループ長)となる。
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