チャイナ・アズ・ナンバーワンともてはやされたのも今は昔、凋落する中国を尻目にに熱視線を浴びているのがインドである。世界経済が失速するなかで、例外的に景気の拡大が続いているインド。ここではまず、インド経済の基本的な背景を解説し、続いて人口動態などを踏まえた長期見通しについて考察したい。

インド経済の高成長を支える3つの柱

IMF(国際通貨基金)によると、2015年のインドの成長率は7.3%となり、中国を抜いて世界一の成長率を達成した。2016年も7.5%と、世界経済が減速するなかで例外的に成長を加速させると予想されている。この好調なインド経済の背景には、「モディノミクス」と称される経済改革、中央銀行に対する高い信頼感、原油安の3つの柱がある。

まず1番目の柱となるのが、モディノミクスだ。2014年5月に発足したモディ政権は、「メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)」をスローガンに掲げ、製造業の拡大を目指して外資の導入、インフラの整備、税制の簡素化などを推進し、外国企業による積極的な投資を呼び込むことに成功した。

主な例では、2015年3月に米自動車大手フォードの新工場が稼働を開始し、生産能力を倍増させたのに続き、7月にはライバルのGM(ゼネラルモーターズ)が新規に10億ドルの設備投資を決定した。2013年から2014年にかけてやや停滞していたインドの自動車販売も2015年には急回復している。また、シャープの買収で注目を集めている鴻海(ホンハイ)も昨年8月に50億ドルの投資を決定、人件費が高騰する中国からインドへと生産拠点をシフトした。

また、2番目の柱として見逃せないのが中央銀行に対する高い信頼感である。2013年9月にRBI(インド準備銀行、中央銀行)総裁に就任したラジャン総裁は、成長の妨げとなっていた高いインフレ率を押し下げ、物価の安定を取り戻すことに成功した。ラジャン総裁の手腕は高い評価を得ており、インド経済の成長を強力に後押ししている。ちなみに、シカゴ大学の教授でもある同総裁は、IMFのチーフ・エコノミストであった2005年当時の論文で、その後の金融危機をほぼ正確に予言したことで名を馳せた。同総裁のスピード感あふれるリーダーシップにより、10%を超えていたインフレ率が、目標となる6%以下へと低下し、家計の実質的な購買力が上昇したことが個人消費の拡大をもたらしている。

3番目の柱が原油安である。インドは世界第4位の原油の輸入大国であり、輸入依存度も高いことから、原油価格の下落が追い風となった。インドでは、原油価格の高騰が燃料補助金の急増による財政収支の悪化と輸入増加による貿易赤字の拡大をもたらしたほか、輸入物価の上昇がインフレ率も押し上げ、「双子の赤字」と高インフレの3重苦を招いていたが、原油価格の急落で双子の赤字が大きく改善し、インフレの抑制にもつながった。

人口動態と所得水準から長期見通しも安泰

長期的な視点に立つと、インドの魅力はその人口動態にある。国連の推計では、6年後の2022年には中国を抜いて総人口が世界一となるが、総人口がピークを迎えるのは2068年とまだ50年以上も先の話しとなる。

また、経済成長をみる上でより重要とされる従属人口指数の見通しも明るい。従属人口指数とは、年少人口と老齢人口を足した数を働き手を意味する生産年齢人口で割った値となる。指数が低下している局面では人口動態が経済にプラスに働くことから人口ボーナス期、逆に指数が上昇する局面では負担が増えて経済にマイナスとなることから人口オーナス(負担)期と呼ばれている。

少子高齢化が進むと、それまで低下していた指数が上昇に転じることになるが、日本の従属人口指数がボトムをつけたのが1992年、米国が2008年、中国が2011年となっており、おおむねこの年を境に成長がそれ以前に比べて鈍化していることがわかる。一方、インドの従属人口指数がボトムとなるのは2040年頃で、まだ20年以上も人口ボーナスを享受できるのだ。

所得の伸びしろも大きく上昇余地を残す

新興国の長期的な成長を考えるときには、「中所得国の罠」にも注意する必要がある。中所得国の罠とは、新興国が中程度の所得を得るまで発展した後、それまでの成長パターンを転換できず、構造改革の遅れから成長率が低下し、長期にわたって停滞することを指す。

この罠の目安は一人当たりGDPが1万ドル前後とされている。中国の一人当たりGDPは既に8000ドルを超えており、2018年頃には1万ドルに到達する見通しで、中国はまさにこの罠にはまった可能性がある。これまで、低所得国から中所得国へと発展した国は多いが、その後も成長を維持して高所得国の仲間入りができた国は少なく、メキシコやブラジル、タイ、マレーシアなど中南米や東南アジアで多くの国がこの罠に陥っている。

その点、インドの一人当たりGDPはまだ2000ドル以下であることから、他の新興国にくらべて伸びしろが大きく、所得面での成長の壁が懸念されるまでには、まだまだ上昇余地が大きく残されている。

向こう5年間の株価の上昇率は年平均10%超えも

インドの代表的な株価指数であるSENSEX指数の年初来騰落率は2月25日現在で12.0%下落と世界的な株価の急落とおおむね歩調を合わせている。また、2015年の騰落率も5.0%下落とさえない数字となっているが、新興国のなかでは下げ幅は小さく、2014年に29.9%と驚異的な伸びを達成していたことを考慮すれば、調整の範囲内といえるだろう。

RBIは2015年中に利下げを4回実施しているが、2016年も金融緩和を継続すると表明しており、追加利下げは既定路線となる。利下げにより、企業の借入れコストが低下して企業収益が改善することで株価の持ち直しが期待されている。また、個人もローン金利の低下で消費を増やすとみられており、景気は予想以上に上振れるとの期待もある。今年の成長率は8.0%を超えるとの見方も出ているほどだ。

IMFによると、今後5年間のインド経済成長率は7%台半ばから後半の伸びが予想されている。過去10年の株価は年平均で10.8%上昇しており、この間の成長率は年平均で7.5%だ。過去の成長率と株価の関係は、7%台の成長を維持した場合、株価は10%以上上昇することを示唆している。こうした経験則からすると、向こう5年間での株価の上昇率は年平均で2ケタ台の高い伸びも期待できそうだ。(ZUU online 編集部)

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