新興国投資,ロシア,ゴールドマン・サックス
(写真=PIXTA)

2001年のゴールドマンサックスによるレポート「Building Better Global Economic BRICs」で注目された新興国投資。特にレポートで触れられているBRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国のその後の急成長は目を見張るものがあった。

しかし2016年の今この4カ国はどうなっているだろうか。ブラジルはデフォルトの危機が叫ばれ、中国経済も危ぶまれている。インドは失速が顕著であり、改善の様子が見えているのはロシアのみと言っても良い。ここでは改めてBRICs4カ国の現状を俯瞰すると共に、2016年においてゴールドマンサックスはどこを見ているのかを見ていきたい。

BRICs4カ国の明暗

BRICs4カ国のうち、世界がいま最も注目しているのは中国だろう。特に1月22日に開催されたダボス会議にて著名投資家のジョージ・ソロス氏が「中国バブルはすでに崩壊した。ハードランディングは避けられない」、「アジアの通貨を空売りしている」という言葉は衝撃を与えた。

かつて空売りで英イングランド銀行と戦い、陥落させたソロス氏が中国バブル崩壊を確信し標準を合わせていると公言したのだ。中国経済について楽観視は決してできない。

同時に、これまでの中国経済の拡大により、上海市場の急落や経済悪化は世界経済へ直撃をした。ダウ平均や日経平均についても直接的な影響を受けたが、それ以上にブラジル経済への影響は致命的であった。

ブラジル経済は新興国の優等生として急成長を進め、資源国として特に対中国貿易を活発化し2014年にはGDP世界7位まで上り詰めた。今年はリオ五輪も控えさらなる高成長が期待されていたが、中国経済の失速により資源価格が低下、また中国に対する貿易依存の高さも響き、2015年からはGDPマイナス成長が予想されている。

また国営企業の汚職問題により大統領弾劾裁判も懸念されている。ブラジルは経済だけでなく政局も不安定になりつつある。インドは中国・ブラジルの陰に隠れていたものの、いまだ低い賃金コストや教育水準の高さから再注目されている。世界経済の悪化や原油安に伴う物価指数の低下や経済の失速は顕著ではあるものの、インド経済の中身は堅固であり、また対中国貿易比率もさほど高くないため安定している。

新興国の新盟主となる可能性は極めて高い。ロシア経済も資源価格低下で打撃を受けたが、2016年には改善に入ると言われている。ゴールドマンサックス、また世界銀行についても2016年度はロシア経済は回復するとみており、BRICs4か国は明暗が大きく分かれている。

近く復活すると予想されるロシア、強気のメキシコ

ゴールドマン・サックスは昨年末に2016年のトップ・トレードをとして、推奨する銘柄を発表している。その中で2016年度の買いを推奨している通貨はロシアのルーブルとメキシコのペソの2通貨だ。

ロシアは現状、経済情勢が悪化しているが理由は資源価格と明確だ。また強力なトップダウンで経済の再構築を行っている為、年内の早い段階で経済の回復が予想されている。ならば底値である今のうちに買っておくべきだというのがゴールドマンの見方だ。現在の資源価格低下を乗り切る事ができれば回復する。そして強い政治力によって乗り切る事が出来るであろうとの判断である。

もう一つ注目株はメキシコだ。現在の世界不況の中、4年連続でGDPが伸びると予想されている。また経済回復が進み利上げも行った米国に隣接する立地にも恵まれ、世界の新工場としても伸びている。

特に自動車産業の発展が著しい。現在日本のメーカーも日産やマツダ、ホンダ等が進出しており、アイシン精機なども近年の進出を発表している。これに伴い3メガバンクもメキシコでの融資を拡大すると発表している。

また原油を輸出する資源国でありながら、この原油安に耐えている事、堅調な経済に伴い、世界で金融緩和が行われている中で、政策金利の引き上げを行った事も評価されている。経済が良好と言われる日本においてもマイナス金利が導入されたが、メキシコでは政策金利がこの2月に0.5%引き上げられて3.75%となった。

金融引き締めを行うほどの景気の堅調ぶりである。また予算についても歳出削減を進め、当初予算から75億米ドル削減するとの発表を行うなど、国家財政面、行政改革でも努力と成果がみられる。その様な状況にも関わらず流動性が低い事もあり為替が下落している。現状の市場での評価はメキシコの実態を反映できていないというのがゴールドマンの見方だ。

注目すべきとされている2か国共に原油資源国だ。メキシコは経済状況が良く、多くの企業が既に集まっている状況であるが、ロシアについては一般的には厳しい評価が続いている。

しかし、強い政治力はロシアの魅力であり、また現在の低資源価格を乗り切る事が出来れば経済回復する事は予想に難くない。

投資は現在の評価ではなく、未来の評価を行って投資行動を決定しなければならない。ゴールドマン・サックスのこの2か国、2通貨の推奨は、投資とは未来を読むことであることを私たちに再認識をさせる話でもある。

木之下裕泰(金融・政治アナリスト/MBA・金融工学修士)