MBA,中国,
(写真=PIXTA)

日本でも紹介された中国のプライベートビジネススクール「長江商学院」は、一般民衆にも思いのほか、幅広く知られている。しかし、「ハーバードビジネススクールのような優秀なインテリが集う学問の府」としてではない。その対極に近い「ギラついた支配階級の社交クラブ」として認識されているようだ。

ここに群がる美女たちが、しばしば艶聞を提供し、エンタメネタの供給元にもなっている。そうした品性を欠く振る舞いに加え、経済格差の象徴としても批判の対象になりやすい。様々な意味において現代中国のシンボル的存在である。以下その実態を探ってみよう。

代表的な3学院とは

似たような機能を果たしている“学院”は多数存在するが、銀行支店長や中小企業経営者のイメージによると代表的なものは次の3つだという。(1)長江商学院、(2)中欧国際商学院、(3)清華大学五道口金融学院である。

(1)長江商学院は国有企業幹部、政府高官、富豪、(2)中欧国際商学院は外資系企業幹部、(3)清華大学五道口金融学院は、金融機関幹部、のイメージがあるという。さらに詳細に見ていこう。

(1)長江商学院-香港の大富豪、李嘉誠の出資により2002年設立。本部・北京、上海と深センに分校。MBA、金融MBA、EMBA取得可能。学員(学生)平均年齢41歳、“企業核心決策層”90%、MBA課程、全日制39万8000元。学生の45%が海外留学を経験。

(2)中欧国際商学院-中国政府とEC(EU)の共同により1994年設立。本部・上海、北京、深センに分校。MBA、金融MBA、EMBA取得可能。学員平均年齢41歳、社会経験16.7年。“企業高層管理人員”93%、これまでの資格取得者4100人、受講者は延べ4万5000人。MBA課程は全日制18カ月、募集人員190人、2015年度授業料38万8000元。金融MBA、45万8000元、EMBA、58万8000元。

(3)清華大学五道口金融学院-人民銀行(中央銀行)研究生部と清華大学の共同により2012年設立。北京市。EMBA取得可能。211課985科目。3年間の卒業生約2000人、うち金融監督機構370人、副部長級以上の幹部6人。“中国最重要高等金融専業人材訓練基地”というふれこみ。学員全員に25~100%の奨学金を支給。

中国におけるMBAの価値

その他MBAコースを持つ教育機関は、北京だけでも33校、全国では250校以上に及ぶ。中国人の意識に潜む欧米好きは隠しようもない。これではその志向が強すぎ、かえってMBAの価値をおとしめることになるだろう。

もともと資格ではなく、学位なのだから修了するだけでよい。したがって、どこで取得したかがすべてである。例えば学費ひとつとってみても北京工商大学のMBAコースなら5万元であり、地方大学では3万元台のところもある。それに比べ、これらビジネススクールは一桁高額だ。当然それなりの増価値(付加価値)を提供している。

あるビジネススクールのランキングサイトによると第1位は中欧国際商学院、第2位は長江商学院、第3位が清華大学(五道口金融学院だけではない)の順になっていて、やはりこの3つが強いことが分かる。

単に経営学を学ぶだけなら、中欧が一番という評価だろう。EU系で上海本拠のため、より一層ビジネスに特化したイメージである。外資系企業との人脈作りには最適だ。

長江商学院と清華大学は北京本拠のため、政府高官、国有企業幹部、金融機関幹部などの体制臭が濃厚だ。こちらでは学生の多くを占める私企業の幹部たちは、体制側との人脈作りに励むことになる。学生の目的、これら学院の存在意義は、こうした今後の事業展開に資する人脈の“平台”(プラットフォーム)作りだ。これが高額授業料の保証する付加価値である。

長江商学院の第2プラットフォーム?

長江商学院には、華やかなOBたちという“売り”もある。何しろOBは中国の500強企業経営の20%に関与、GDPの13.6%を創出、と豪語している。紹介サイトでは27人の名を挙げていて、中にはアリババ集団創業者・馬雲の名も見える。彼に限らずそのほとんどが国有、私有の大企業トップで占められ、アピール度は非常に高い。

学生平均年齢41歳、彼らはすでに中~大企業の経営層に属する、将来のCEOまで見据えたエリートである。また実際のCEOや大富豪たちもCEOプログラムを受講しにやってくる。富豪ライフのプラットフォーム作りを目指す、野心家の美女たちが彼らを見逃すはずはない。学院には無数の“女芸人”から入学問い合わせが後をたたないという。

大手不動産会社“万科集団”の董事長・王石のケースは、こうした第2プラットフォームの代表例である。1951年生まれの王は2012年、前妻と離婚、長江商学院のマスメディア研究コースに在籍した売れない美人女優D(1981年生)と再婚した。この後Dは、知名度、メディア露出度を一気に上げ、入学目的を遂げている。似たような例はネットでいくつも見つけられる。

さらに、“長江商学院は女人の資本運用の聖地”といった揶揄するコメントで埋まっている。同じ2012年、米フォーブス誌は、中国で最も価値あるMBAに同学院を選んでいるが、こちらの話題はかすんでしまった。

創立者の李嘉誠は、純粋に欧米勢に伍して戦えるビジネスエリートを育てたかったのだろう。しかし、今の長江商学院は、欲望渦巻く現代中国社会の縮図である。中国の理想とは結局こうなる、というケースの見本のようでもある。これからも同学院からは目が離せない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)